食材から辿る / 旧大陸

牛肉 素材 時期 B検証済

成立年代 -8500〜

牛肉が、いつ・どこで食べ物として成立し、各地へどう伝わったかをまとめています。 原産地での成立を3ゲート(食材入手・調理技術・場)で示し、その後の各地への到来を記録でたどります。

近東(アナトリア東部〜上部ユーフラテス/ティグリス)で前8500年ごろ、オーロックスからタウリン牛が単一起源で家畜化(Verdugo 2019)。南アジアでコブ牛が別系統として前6500年ごろ独立家畜化。家畜化=食肉入手の成立

3ゲート

食材入手ゲート
家畜化(近東でオーロックス Bos taurus を家畜化)=前8500年ごろ
調理技術ゲート
火による加熱調理(焼く・煮る)。肉の調理は家畜化以前の狩猟段階から在り自明
場ゲート
食材入手と同年(家畜牛の食用は入手=家畜化と同時に成立。場ゲートは退化)

牛肉はどこから広がったか

牛肉、すなわち家畜牛の肉は、旧大陸の農耕の始まりと分かちがたく結びついた食材である。家畜牛のもとになった野生のウシはオーロックスと呼ばれ、この巨大な野牛から牛が飼い慣らされたのは、近東——いまのアナトリア東部から上部ユーフラテス・ティグリス川のあたりで、およそ紀元前8500年ごろのことだった。古代の牛のゲノムを解析した研究(ヴェルドゥーゴらの2019年の報告)は、いま世界に広がる肩にこぶのない牛(タウリン牛)が、この近東の一か所でオーロックスから家畜化された、単一の起源をもつことを示している。

ただし、牛の家畜化はこれ一度きりではなかった。南アジアでは、肩に大きなこぶをもつコブウシ(ゼブー)が、近東の牛とは別系統として独立に飼い慣らされている。北インドあたりで、いまからおよそ8500年前——紀元前6500年ごろのことである。牛は、遠く離れた二つの土地で、別々に人の家畜になった。

農耕一式としてヨーロッパへ

近東で家畜になった牛は、小麦や大麦、羊・山羊・豚とともに、ひとまとまりの農耕の道具立て——作物と家畜をそろえた一式(新石器パッケージ)として西へ運ばれた。牛と小麦は別々に旅をしたのではなく、同じ農耕の広がりに乗って一緒にヨーロッパへ入っていったのである。アナトリアからエーゲ海を経て、バルカン半島には紀元前5700年ごろに達し(ギレーヌの2001年の総説)、そこから中欧へと広がった。南カフカス地方でも、紀元前5千年紀には牛を含む牧畜が営まれていたと伝えられる。

アフリカへ

牛はアフリカへも牧畜民とともに広がった。東アフリカでは、いまからおよそ5000〜4000年前——紀元前3000年ごろから牛を飼う暮らしが根づいた。大陸の南端、喜望峰のあたりへ牛がもたらされたのは、コイコイの牧畜民の手によるおよそ2000年前のことである。

大航海時代——新大陸へ

牛が原産地から遠く海を越えるのは、コロンブス以後の大航海時代を待ってのことだった。スペイン人はまずカリブ海へ牛を持ち込み、キューバには早くも1512年にイベリア半島の牛が渡っている(コロンブス到達から500年後の遺伝的痕跡を調べた研究による)。以後、南米のラプラタ地域へ1536年、ペルーへ1540年、チリへ1540年ごろと、スペインの植民とともに牛は新大陸各地へ広がった。メキシコ北部には1600年ごろ、北米のイギリス植民地(バージニア)へは1611年ごろに牛が入った。太平洋のハワイには1793年、イギリスのヴァンクーヴァーがカメハメハ王へ牛を献上したのが始まりで、これが島の牧畜(パニオロ)へと育っていく。オーストラリアへは、最初の移民船団とともに18世紀末から19世紀初めに牛がもたらされた。

近代——開国と植民地、そして冷蔵の牛肉

牛肉が新しく食卓に加わった土地もある。日本では、長く肉食を避ける習慣が続いたのち、明治の開国とともに肉食が解禁され、1872年ごろから牛肉が広まった(原田信男の研究による)。東南アジアでは、フランスの植民地支配を通じて牛肉料理が根づき、ベトナムには1880年ごろ牛肉が入り、カンボジアにも19世紀末から20世紀にかけて広まったと伝えられる。そして牛肉を安く大量に食べられる時代を開いたのは、輸送の技術だった。アメリカでは1880年代、スウィフトらが冷蔵貨車を実用化し、シカゴの食肉処理場で解体した牛肉を全国へ安価に送り出せるようになった。近東の一頭のオーロックスから始まった牛は、こうして一万年をかけて、世界の食卓を覆っていったのである。

各地への伝来 41

各地で食べ物として定着した時期の記録です。地域によっては、それに先立つ物理的な到来(観賞用など、食用より前の前史)が含まれることがあります。

  • 前8800〜前8000頃 アナトリア 在来
  • 前7000〜前5500頃 バルカン半島 交易路
  • 前7000〜前6000頃 北インド 在来
  • 前5700〜前5000頃 イタリア 在来
  • 前5500〜前5000頃 オーストリア 在来在地栽培
  • 前5500〜前5000頃 フランス 在来
  • 前5000〜1頃 コーカサス 在来在地栽培
  • 前5000頃 スイス 在来
  • 前4450〜前3700頃 アイルランド 在来
  • 前4100〜前3800頃 英国 在来在地栽培
  • 前3000頃 スペイン・カナリア諸島 在来
  • 前3000〜0頃 北欧 在来
  • 前3000〜前2000頃 東アフリカ 在来
  • 前1600〜前400頃 エチオピア 在来
  • 前1500〜1頃 インドネシア 在来在地栽培
  • 前1500頃 ラオス 在来
  • 前300〜300頃 南アフリカ 在来在地栽培
  • 0頃 四川 在来
  • 200〜1000頃 ボツワナ 在来
  • 1270〜1600頃 朝鮮半島 在来
  • 1493〜1520頃 ハイチ 植民地交易
  • 1494〜1512頃 キューバ 植民地交易
  • 1509〜1550頃 ジャマイカ 新大陸交換
  • 1521〜1540頃 メキシコシティ 植民地交易
  • 1527〜1548頃 コロンビア・ベネズエラ 植民地交易
  • 1532〜1600頃 ペルー 植民地交易
  • 1536〜1600頃 ラプラタ地域 新大陸交換
  • 1540〜1560頃 チリ 植民地交易
  • 1591〜1680頃 メキシコ北部 植民地交易
  • 1600頃 フィリピン 植民地交易在地栽培
  • 1608〜1650頃 カナダ 植民地交易流通
  • 1611〜1624頃 米国 植民地交易
  • 1634〜1700頃 ブラジル・リオグランデ・ド・スル州 植民地交易
  • 1687〜1866頃 近江 幕府特例(薬食い)
  • 1690〜1721頃 テキサス 植民地交易
  • 1788〜1820頃 オーストラリア 植民地交易
  • 1793頃 ハワイ 植民地交易
  • 1863〜1953頃 カンボジア 仏植民地交易
  • 1872頃 日本 日本開国(明治の肉食解禁)
  • 1880〜1900頃 シカゴ 冷蔵貨車による安価な牛肉の流通流通
  • 1880頃 ベトナム 仏植民地交易

牛肉の到来が成立を縛った料理 50

牛肉が届く前には成り立たなかった料理です。到来年が、その料理の物理的な下限になります。

牛肉を使う料理 52

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