一覧 / 西欧 / 英国・アイルランド料理
英国式ハッシュドビーフ(cold meat cookery) 時期 B起源説 B検証済
確度は2軸: 時期=成立時期の固さ/起源説=発祥譚(説)の固さ(A〜Dの4段階・別々に持つ)。確度とは?→
暴かれた通説あり出典で反証された通説を抱える料理です(真の起源は未確定のことが多い)。
お気に入りリスト
史料が示すこと 起源・発祥は?
俗説「英国のハッシュドビーフの最古の記述は1788年の英国料理書である、とする説。日本語版 Wikipedia「ハッシュドビーフ」が「1788年に発行…」は、史料の検証で退けられている。
英語の hash は仏語 hacher(刻む)/hachis(刻んだ肉の料理)の借用で、17世紀半ばの英語料理書がフランス風の made-dish として取り入れ、それが英国の大きなロースト肉を焼く食習慣と結びついて『焼いて冷めた肉を薄く切り、その肉から取ったグレービーで煮直す』家政技法として定着した。(1) 16世紀の英語料理書には hash の語が無い。EEBO-TCP に逐語翻刻のある16世紀英語料理書(Partridge 1573/1588/1591、Dawson 1587/1597、A.W. 1591、Good Huswifes Handmaid 1597、Epulario 英訳1598、Murrell 1617)を全文検索して0件(通覧範囲=EEBO-TCP に翻刻のある英語料理書に限る)。(2) 英語料理書での最古級の用例は1641年 John Murrell『Murrels Two Books of Cookerie and Carving』の「To hash a Legge of Mutton on the French fashion」で、料理書自身が『フランス風』と断っている。(3) 1653年に La Varenne『Le Cuisinier françois』の英訳『The French Cook』がロンドンで出て、仏語 hachis が英語 hash と訳される。(4) 1654年 Joseph Cooper の段階では対象は羊・仔羊・カポンで、半茹で/半焼きの肉を薄切りにして煮る作りであり、牛肉の項も冷肉の項も無い。(5) 牛肉のハッシュ、しかも『焼いて冷めた肉』を使う法が現れるのは1660年 Robert May『The Accomplisht Cook』初版で、「Being rosted and cold cut it into very fine thin slices, then put some gravy to it, nutmeg, salt, a little thin slict onion, and claret wine, stew it in a pipkin」=冷えたローストビーフの極薄切りをグレービー・ナツメグ・塩・薄切り玉葱・クラレットで煮直し、sippets を添える。(6) 1747年 Hannah Glasse 初版59頁「To Hash Mutton like Venison」の末尾に「Hash Beef the same Way.」があり、同じ作りで牛肉にも当てる。同頁の「To Hash Cold Mutton」は薄いパンを焼いて三角に切り皿に並べてハッシュを注ぐ(sippets)。(7) 1861年 Isabella Beeton が印刷頁292 レシピ628「HASHED BEEF (Cold Meat Cookery)」として家政書の一項目に定型化する。材料は取っておいたグレービー、トマトソース・ハーヴェイソース・マッシュルームケチャップ各小さじ1、ポートまたは強いエール、とろみ用の小麦粉、みじん玉葱1個、冷えたローストビーフの薄切りで、焼いたパン(sippets)を添える。1660年・1747年・1861年を貫く骨格は『冷えたローストビーフの薄切り+玉葱+肉から取った褐色の煮汁+パン』で一貫している。この形が1888年(明治21)『軽便西洋料理法指南』の「ハヤシビフ」として日本語に転写され、ハヤシライス(#3175)になった。 なお「最古の記述は1788年の英国料理書とする説(日本語圏で流布)」という通説は一次史料・学術文献で退けられている。
3ゲート
- 食材入手ゲート
- 牛肉は英国在来(前4000年頃の新石器期に家畜として到来)、玉ねぎは西欧で800年頃(カール大帝『御料地令』)から常用の菜園作物で、ともに17世紀の英国では入手容易=食材入手は律速にならない。クラレット(赤葡萄酒)・ナツメグ・メースも中世以来の輸入品で入手可
- 調理技術ゲート
- —
- 場ゲート
- venue=家庭の台所(1660年時点は貴顕の厨房、19世紀は中流家庭)/ stratum=富裕層→都市中間層 / access=家庭 / community=一般家庭。条件は「大きなロースト肉の塊を焼いて余らせる家」であること。1861年 Beeton の献立表 PLAIN FAMILY DINNERS は日曜=ローストビーフ、月曜=冷えたローストビーフ、火曜=ハッシュドビーフ(第1919項・第2124項)と週の回し方を明示する
成立年代と成立ゲート
食材入手と調理技術の各ゲートを同じ時間軸に並べた(流通は独立ゲートでなく食材入手の経路として内包し、場ゲートは年に乗らない構造ゲートなので図には出さない)。最も遅い食材入手ゲート(800年・在地/到来・玉ねぎ)が律速=成立の物理的な下限で、太線で示す。それより早い要因はその時点で既に充足していた(細線)。成立年代の帯は律速以降にある。
- 食材入手(流通/在地/加工の経路を内包)
- 太線=律速(最も遅い=成立を縛る)
- 細線=既に充足
- 場ゲートは年に乗らない構造ゲート(図外)
検証メモ: 焼いて冷めたローストビーフを薄く切り、その肉から取っておいた褐色の煮汁(グレービー)と玉葱で煮直し、焼いたパン(sippets)を添える英国の家庭料理。英語 hash は仏語 hacher(刻む)/hachis の借用で、17世紀半ばにフランス風の made-dish として英語料理書に入った。1641年 John Murrell は「To hash a Legge of Mutton on the French fashion」と自ら「フランス風」と断り、1653年には La Varenne の英訳『The French Cook』がロンドンで出て hachis が hash と訳される。1654年 Joseph Cooper の段階では対象は羊・仔羊・カポンで、牛肉の項も冷肉の項も無い。牛肉で、しかも焼いて冷めた肉を使う形が現れるのは1660年 Robert May『The Accomplisht Cook』初版で、「焼いて冷めた肉を極薄に切り、グレービー・ナツメグ・塩・薄切り玉葱・クラレットを加えて小鍋で煮る」と書かれ、皿には sippets を飾る。1747年 Hannah Glasse は「To Hash Mutton like Venison」の末尾に「Hash Beef the same Way.」と付し、同頁の「To Hash Cold Mutton」では薄いパンを焼いて三角に切り皿に並べその上に注ぐ。1861年 Isabella Beeton はレシピ628「HASHED BEEF (Cold Meat Cookery)」として、取っておいたグレービー・トマトソース・ハーヴェイソース・マッシュルームケチャップ・ポートまたは強いエール・粉でとろみ・みじん玉葱・冷えたローストビーフの薄切り、という材料を並べ、沸かさずに温めて焼いたパンを添えよと指示した。1660年・1747年・1861年を貫く骨格は「冷えたローストビーフの薄切り+玉葱+肉から取った褐色の煮汁+パン」で一貫している。この形が1888年(明治21)『軽便西洋料理法指南』の「ハヤシビフ」として日本語へ転写され、ハヤシライス(#3175)になった=#3177→#3175 は伝播。「Cold Meat Cookery(冷肉の料理)」という呼び名は Beeton の章分類であって料理の起源ではない。1660年の姿はクラレット・レモン・ナツメグを使い彫った sippets を添える貴顕の厨房の一皿で、節約食ではなかった。19世紀が与えたのは、日曜のローストを週の前半で回す中流家庭の家政という位置づけと、その分類名である。日本語圏で引かれる「1788年の英国料理書が最古の記述」という説明は、1660年と1747年の記述に先を越されており最古ではない。似た見た目のビーフストロガノフ(#25)とは系統が別で、ロシア側の記録上の初出は1871年モロホヴェツ料理書=英国側より211年遅く、両者を結ぶ史料は無い
起源説
定説
★主 仏語 hachis の借用と英国の cold meat cookery への定着(17世紀) B
英語の hash は仏語 hacher(刻む)/hachis(刻んだ肉の料理)の借用で、17世紀半ばの英語料理書がフランス風の made-dish として取り入れ、それが英国の大きなロースト肉を焼く食習慣と結びついて『焼いて冷めた肉を薄く切り、その肉から取った…続きを読む
英語の hash は仏語 hacher(刻む)/hachis(刻んだ肉の料理)の借用で、17世紀半ばの英語料理書がフランス風の made-dish として取り入れ、それが英国の大きなロースト肉を焼く食習慣と結びついて『焼いて冷めた肉を薄く切り、その肉から取ったグレービーで煮直す』家政技法として定着した。(1) 16世紀の英語料理書には hash の語が無い。EEBO-TCP に逐語翻刻のある16世紀英語料理書(Partridge 1573/1588/1591、Dawson 1587/1597、A.W. 1591、Good Huswifes Handmaid 1597、Epulario 英訳1598、Murrell 1617)を全文検索して0件(通覧範囲=EEBO-TCP に翻刻のある英語料理書に限る)。(2) 英語料理書での最古級の用例は1641年 John Murrell『Murrels Two Books of Cookerie and Carving』の「To hash a Legge of Mutton on the French fashion」で、料理書自身が『フランス風』と断っている。(3) 1653年に La Varenne『Le Cuisinier françois』の英訳『The French Cook』がロンドンで出て、仏語 hachis が英語 hash と訳される。(4) 1654年 Joseph Cooper の段階では対象は羊・仔羊・カポンで、半茹で/半焼きの肉を薄切りにして煮る作りであり、牛肉の項も冷肉の項も無い。(5) 牛肉のハッシュ、しかも『焼いて冷めた肉』を使う法が現れるのは1660年 Robert May『The Accomplisht Cook』初版で、「Being rosted and cold cut it into very fine thin slices, then put some gravy to it, nutmeg, salt, a little thin slict onion, and claret wine, stew it in a pipkin」=冷えたローストビーフの極薄切りをグレービー・ナツメグ・塩・薄切り玉葱・クラレットで煮直し、sippets を添える。(6) 1747年 Hannah Glasse 初版59頁「To Hash Mutton like Venison」の末尾に「Hash Beef the same Way.」があり、同じ作りで牛肉にも当てる。同頁の「To Hash Cold Mutton」は薄いパンを焼いて三角に切り皿に並べてハッシュを注ぐ(sippets)。(7) 1861年 Isabella Beeton が印刷頁292 レシピ628「HASHED BEEF (Cold Meat Cookery)」として家政書の一項目に定型化する。材料は取っておいたグレービー、トマトソース・ハーヴェイソース・マッシュルームケチャップ各小さじ1、ポートまたは強いエール、とろみ用の小麦粉、みじん玉葱1個、冷えたローストビーフの薄切りで、焼いたパン(sippets)を添える。1660年・1747年・1861年を貫く骨格は『冷えたローストビーフの薄切り+玉葱+肉から取った褐色の煮汁+パン』で一貫している。この形が1888年(明治21)『軽便西洋料理法指南』の「ハヤシビフ」として日本語に転写され、ハヤシライス(#3175)になった。
- 言及 The Forme of Cury (c.1390, リチャード2世の料理長編纂・Samuel Pegge 校訂1780年版, Project Gutenberg 全文) — 'For to make Tartys in Applis':現存最古級の英語リンゴタルト/パイ製法。あわせて第34項 'Chykens in Hocchee'(丸のままの鶏にパセリ・セージ・大蒜・葡萄を詰めて出汁で煮る料理で、肉を刻む工程が無い)を収める。Pegge は当該項に 'Hochee. This does not at all answer to the French Hachis, or our Hash' と注記し、語彙集でも 'Hochee. 34. hache, Fr. but there is nothing to intimate cutting them to pieces' と書く 重み5
- 支持 Isabella Beeton, The Book of Household Management (London: S.O. Beeton, 1861 合本初版) 印刷頁292 レシピ628「HASHED BEEF (Cold Meat Cookery)」— 材料は肉から取っておいたグレービー、トマトソース小さじ1、ハーヴェイソース小さじ1、良いマッシュルームケチャップ小さじ1、ポートまたは強いエール、胡椒と塩、とろみ用の小麦粉少々、みじん切りの玉葱1個、冷えたローストビーフの薄切り数枚。肉以外を煮て脂を掬い、粉をまぶした薄切り肉を入れて沸かさずに温め、sippets of toasted bread(焼いたパン)を添える。続く293頁のレシピ629はロースト骨から出汁を取る第二法。同書は Cold Meat Cookery を家政書の一分類として立てた。19世紀英国の残り肉料理としての hashed beef の一次史料 重み5
- 支持 Hannah Glasse, The Art of Cookery Made Plain and Easy (London, 1747 初版) 59頁(第4章)「To Hash Mutton like Venison」— 冷肉を極薄に刻み、骨で取った出汁を漉し、グレービー1/4パイントに赤葡萄酒大匙一杯・みじん玉葱・レモンの皮・粉をまぶしたバターを加えて温め直す。項の末尾に「Hash Beef the same Way.」とあり、牛肉のハッシュを同じ作り方で示す。直前の「To Hash Cold Mutton」は、薄いパンを狐色に焼いて三角に切ったものを皿に並べ、その上にハッシュを注ぐ(sippets)と指示する。英語圏 hashed beef の18世紀一次史料 重み5
- 支持 Robert May, The Accomplisht Cook, or the Art and Mystery of Cookery (London, 1660 初版) — 牛肉のハッシュの項「To make a hash of Beef otherwayes」の第三法に「Otherwayes. Being rosted and cold cut it into very fine thin slices, then put some gravy to it, nutmeg, salt, a little thin slict onion, and claret wine, stew it in a pipkin, and being well stewed dish it and serve it up, run it over with beaten butter, and slict lemon, garnish the dish with sippets」=焼いて冷めた牛肉を極薄に切り、グレービー・ナツメグ・塩・薄切り玉葱・クラレットで煮直し、sippets(切ったパン)を添える。英語圏で確認できる冷肉のハッシュドビーフの最古の記述。原本スキャン(EEBO, archive.org)。本文は EEBO-TCP の逐語翻刻 A88977(Wing M1391 / ESTC R12789, CC0)で確認 重み5
- 支持 John Murrell, Murrels Two Books of Cookerie and Carving (London, 1641) 「To hash a Legge of Mutton on the French fashion」「To hash Deere, Sheepe, or Calves tongues, on the French fashion」— 英語料理書における hash の最古級の用例で、いずれも「フランス風(on the French fashion)」と明示する。英語 hash が仏語 hachis/hacher の借用であることを同時代の料理書が自ら示す証拠。EEBO-TCP 逐語翻刻 A51636(CC0) 重み5
- 支持 Joseph Cooper (chiefe cook to the late King), The Art of Cookery Refind and Augmented (London, 1654) 「How to hashe a leg of Mutton」「How to hashe a shoulder or leg of Mutton」「How to make a hashe of a Leg of Lambe」「How to hashe a Capon」— 1660年以前の英語のハッシュは羊・仔羊・カポンが対象で、半茹で/半焼きにした肉を薄切りにして煮る作りであり、牛肉の項も冷肉の項も無い。EEBO-TCP 逐語翻刻 A34445(CC0) 重み5
- 支持 François Pierre de La Varenne, The French Cook (London, 1653) — Le Cuisinier françois の英訳。仏語 hachis を英語 hash と訳した項が並ぶ(Hash of carpes/Potage of hash of carpes/Pie made up with hash of eele 等)。英語 hash が17世紀半ばにフランス料理の語彙として英語へ入った経路を示す。EEBO-TCP 逐語翻刻 A88798(CC0) 重み5
- 言及 Hash (food) — Wikipedia(英語)— 語源を仏語 hacher(刻む)とし、14世紀に英国人が hache/hachy を作っていた、1662年に Samuel Pepys が兎のハッシュを日記に書いた、18世紀の料理書にレシピがある、と整理する。原典へ辿る索引として使用 重み1
反証
最古の記述は1788年の英国料理書とする説(日本語圏で流布) D
英国のハッシュドビーフの最古の記述は1788年の英国料理書である、とする説。日本語版 Wikipedia「ハッシュドビーフ」が「1788年に発行されたイギリス料理の書籍は、残り物のローストビーフを薄く切ってエシャロットやピクルスとともに煮込む、と記している」と…続きを読む
英国のハッシュドビーフの最古の記述は1788年の英国料理書である、とする説。日本語版 Wikipedia「ハッシュドビーフ」が「1788年に発行されたイギリス料理の書籍は、残り物のローストビーフを薄く切ってエシャロットやピクルスとともに煮込む、と記している」と書き、日本語圏ではこの年がハッシュドビーフの英国側の起点として引かれる。しかし年代が合わない。1660年 Robert May『The Accomplisht Cook』初版に既に「Being rosted and cold cut it into very fine thin slices…」=冷えたローストビーフの極薄切りをグレービー・薄切り玉葱・クラレットで煮直す法があり、1747年 Hannah Glasse 初版59頁にも「Hash Beef the same Way.」がある。1788年より128年および41年早い。したがって1788年は最古の記述ではない。反証の射程は限定する=1788年の当該書にそういう記述があること自体を否定するのではなく、それを『最古』とする位置づけだけが誤りである。またこの説は日本語圏の百科記事に由来し、学術的な対立説ではない。
- 反証 Hannah Glasse, The Art of Cookery Made Plain and Easy (London, 1747 初版) 59頁(第4章)「To Hash Mutton like Venison」— 冷肉を極薄に刻み、骨で取った出汁を漉し、グレービー1/4パイントに赤葡萄酒大匙一杯・みじん玉葱・レモンの皮・粉をまぶしたバターを加えて温め直す。項の末尾に「Hash Beef the same Way.」とあり、牛肉のハッシュを同じ作り方で示す。直前の「To Hash Cold Mutton」は、薄いパンを狐色に焼いて三角に切ったものを皿に並べ、その上にハッシュを注ぐ(sippets)と指示する。英語圏 hashed beef の18世紀一次史料 重み5
- 反証 Robert May, The Accomplisht Cook, or the Art and Mystery of Cookery (London, 1660 初版) — 牛肉のハッシュの項「To make a hash of Beef otherwayes」の第三法に「Otherwayes. Being rosted and cold cut it into very fine thin slices, then put some gravy to it, nutmeg, salt, a little thin slict onion, and claret wine, stew it in a pipkin, and being well stewed dish it and serve it up, run it over with beaten butter, and slict lemon, garnish the dish with sippets」=焼いて冷めた牛肉を極薄に切り、グレービー・ナツメグ・塩・薄切り玉葱・クラレットで煮直し、sippets(切ったパン)を添える。英語圏で確認できる冷肉のハッシュドビーフの最古の記述。原本スキャン(EEBO, archive.org)。本文は EEBO-TCP の逐語翻刻 A88977(Wing M1391 / ESTC R12789, CC0)で確認 重み5
- 言及 ハッシュドビーフ — Wikipedia(日本語)薄く細切りにした牛肉をドミグラスソースやトマトソースで煮込んだ洋食。英国では元来ドミグラスソースで煮込まず、日本へ伝わってから変化したと推察されるとする。1888年『軽便西洋料理法指南』の「ハヤシビフ」を日本での初出とする 重み1
ヴィクトリア朝の節約家政が生んだ料理とする説 D
ハッシュドビーフはヴィクトリア朝19世紀の節約家政(残り物処理)が生んだ料理である、とする説。「Cold Meat Cookery(冷肉の料理)」という呼び名そのものが1861年 Beeton『The Book of Household Management』…続きを読む
ハッシュドビーフはヴィクトリア朝19世紀の節約家政(残り物処理)が生んだ料理である、とする説。「Cold Meat Cookery(冷肉の料理)」という呼び名そのものが1861年 Beeton『The Book of Household Management』の章分類であり、同書がこの分類に力を入れたと序文で述べているため、ハッシュドビーフを19世紀の節約家政の産物として説明する筋書きが広く流通する。だが料理は少なくとも1660年 Robert May『The Accomplisht Cook』初版まで遡り、19世紀の発明ではない。しかも1660年の姿は節約食ではなく、クラレット(赤葡萄酒)・レモン・ナツメグ・彫った sippets を添える貴顕の厨房の made-dish で、同じ書の隣の頁には葡萄・バーベリー・グーズベリーで飾る他のハッシュが並ぶ。残り肉を使うという性格は最初からあるが、それは『倹約』ではなく当時の made-dish の作法の一部だった。19世紀が加えたのは料理そのものではなく、(a)『Cold Meat Cookery』という家政書上の分類名と、(b) 中流家庭の週の回し方という位置づけである。Beeton の献立表「PLAIN FAMILY DINNERS」は、日曜=ローストビーフ、月曜=冷えたローストビーフ、火曜=ハッシュドビーフ(第1919項・第2124項)と明示し、日曜のローストの塊肉を週の前半で回す家政の中にハッシュドビーフを置いている。したがって『ヴィクトリア朝が生んだ』は誤りで、正しくは『ヴィクトリア朝が節約の意味づけと分類を与えた』である。
- 反証 Isabella Beeton, The Book of Household Management (London: S.O. Beeton, 1861 合本初版) 印刷頁292 レシピ628「HASHED BEEF (Cold Meat Cookery)」— 材料は肉から取っておいたグレービー、トマトソース小さじ1、ハーヴェイソース小さじ1、良いマッシュルームケチャップ小さじ1、ポートまたは強いエール、胡椒と塩、とろみ用の小麦粉少々、みじん切りの玉葱1個、冷えたローストビーフの薄切り数枚。肉以外を煮て脂を掬い、粉をまぶした薄切り肉を入れて沸かさずに温め、sippets of toasted bread(焼いたパン)を添える。続く293頁のレシピ629はロースト骨から出汁を取る第二法。同書は Cold Meat Cookery を家政書の一分類として立てた。19世紀英国の残り肉料理としての hashed beef の一次史料 重み5
- 反証 Robert May, The Accomplisht Cook, or the Art and Mystery of Cookery (London, 1660 初版) — 牛肉のハッシュの項「To make a hash of Beef otherwayes」の第三法に「Otherwayes. Being rosted and cold cut it into very fine thin slices, then put some gravy to it, nutmeg, salt, a little thin slict onion, and claret wine, stew it in a pipkin, and being well stewed dish it and serve it up, run it over with beaten butter, and slict lemon, garnish the dish with sippets」=焼いて冷めた牛肉を極薄に切り、グレービー・ナツメグ・塩・薄切り玉葱・クラレットで煮直し、sippets(切ったパン)を添える。英語圏で確認できる冷肉のハッシュドビーフの最古の記述。原本スキャン(EEBO, archive.org)。本文は EEBO-TCP の逐語翻刻 A88977(Wing M1391 / ESTC R12789, CC0)で確認 重み5
検証ログ 追記専用の監査証跡
| 日付 | 結果 | 確度 | 主張 / 出典 | 更新者 |
|---|---|---|---|---|
| 2026-08-21 | 支持 | D→B |
英語圏で『焼いて冷めたローストビーフを薄切りにし、その肉から取ったグレービー・薄切り玉葱・葡萄酒で煮直す』ハッシュドビーフの、現時点で確認できる最古の記述は1660年 Robert May『The Accomplisht Cook』初版である
|
polisher-1 |
| 2026-08-21 | 支持 | B→B |
英語の hash は仏語 hachis/hacher の借用で、英語料理書に入るのは17世紀。最古級の用例は1641年 John Murrell が『on the French fashion(フランス風に)』と断って載せる羊のハッシュである。またEEBO-TCP に逐語翻刻のある16世紀英語料理書9点(Partridge 1573/1588/1591・Dawson 1587/1597・A.W. 1591・Good Huswifes Handmaid 1597・Epulario英訳1598・Murrell 1617)を全文検索して hash の語は0件(通覧範囲はこの9点=EEBO-TCP に翻刻のある英語料理書に限る)
|
polisher-1 |
| 2026-08-21 | 支持 | B→B |
1653年にロンドンで出た La Varenne『Le Cuisinier françois』の英訳『The French Cook』が仏語 hachis を英語 hash と訳しており、語の借用経路を同時代の翻訳が示す
|
polisher-1 |
| 2026-08-21 | 支持 | B→B |
1654年 Joseph Cooper の段階では英語のハッシュは羊・仔羊・カポンが対象で、半茹で/半焼きにした肉を薄切りにして煮る作りであり、牛肉の項も冷肉(残り肉)の項も無い=牛肉と冷肉への適用は1660年 May で確認できる
|
polisher-1 |
| 2026-08-21 | 支持 | B→B |
1747年 Hannah Glasse 初版59頁「To Hash Mutton like Venison」の末尾に「Hash Beef the same Way.」とあり、冷肉を極薄に切り、骨で取った出汁・赤葡萄酒・みじん玉葱・レモンの皮・粉をまぶしたバターで煮直す作りを牛肉にも当てる。同頁の「To Hash Cold Mutton」は薄いパンを狐色に焼いて三角に切り皿に並べ、その上にハッシュを注ぐ(sippets)
|
polisher-1 |
| 2026-08-21 | 支持 | B→B |
1861年 Isabella Beeton が印刷頁292 レシピ628「HASHED BEEF (Cold Meat Cookery)」として、取っておいたグレービー・トマトソース・ハーヴェイソース・マッシュルームケチャップ各小さじ1・ポートまたは強いエール・粉でとろみ・みじん玉葱1個・冷えたローストビーフの薄切り、という形を家政書の一項目に定型化した。仕上げは沸かさずに温め、焼いたパン(sippets of toasted bread)を添える
|
polisher-1 |
| 2026-08-21 | 支持 | B→B |
場ゲートの実態=1861年 Beeton の献立表 PLAIN FAMILY DINNERS は、日曜=ローストビーフ、月曜=冷えたローストビーフ、火曜=ハッシュドビーフ(2月の第1919項、12月の第2124項)と週の回し方を明示し、ハッシュドビーフが日曜の塊肉を回す中流家庭の家政の一部だったことを示す
|
polisher-1 |
| 2026-08-21 | 反証 | D→D |
英国のハッシュドビーフの最古の記述は1788年の英国料理書である(日本語圏で流布する説)
|
polisher-1 |
| 2026-08-21 | 反証 | D→D |
英国のハッシュドビーフはヴィクトリア朝19世紀の節約家政(残り物処理)が生んだ料理である
|
polisher-1 |
| 2026-08-21 | 不明 | B→B |
『英語の hash は14世紀英国の hache/hachy に遡る』という記述(英語版Wikipedia)は、14世紀英国料理書 The Forme of Cury(c.1390)では裏づけられない。名称の近い項は第34項『Chykens in Hocchee』のみで、丸のままの鶏にパセリ・セージ・大蒜・葡萄を詰めて出汁で煮る料理=肉を刻む工程が無い(通覧範囲は The Forme of Cury 1点のみで、他の中英語料理写本は未確認)
|
polisher-1 |
| 2026-08-21 | 支持 | B→B |
1888年(明治21)『軽便西洋料理法指南』の「ハヤシビフ」は Glasse/Beeton 型の英国式 hashed beef のレシピそのものであり、#3177(英国式ハッシュドビーフ=祖型)→#3175(ハヤシライス=派生)の伝播関係が成り立つ
|
polisher-1 |
| 2026-08-21 | 不明 | B→B |
英国式ハッシュドビーフとビーフストロガノフ(#25)を系譜で結ぶ史料は無く、dish_relations を張らない。英語のハッシュは1641年に英語料理書へ入り1660年には牛肉・冷肉に及んでいるのに対し、ストロガノフのロシア側の記録上の初出は1871年モロホヴェツ料理書で211年遅い
|
polisher-1 |
構成素材
この料理を構成する素材の成立史へ。「成立史は準備中」の素材はまだページがありません。