一覧 / 西欧 / 英国・アイルランド料理
コテージパイは、味付けした牛ひき肉をマッシュポテトで覆って焼いた英国の家庭料理である。「牛肉はコテージパイ、羊肉はシェパーズパイ」という区別は昔からの伝統と思われがちだが、史料をたどると近代の後付けにすぎない。二つの名は、もともと肉を選ばずほぼ同じ料理を指していた。
史料が示すこと 起源・発祥は?
俗説「「コテージパイは必ず牛肉、シェパーズパイは必ず羊/マトン、という区別は昔からの伝統」とする通説。史料上は誤り=両語は登場以来ほぼ互換的に使われ、…」は、史料の検証で退けられている。
「cottage pie(農家小屋のパイ)」の名は18世紀末、英国の田舎の貧しい人々(cottagers)がジャガイモを日常食として使い始めた頃に生まれた。残り肉(当時は牛肉に限らずヴィールも)をマッシュポテトで覆って焼いた庶民の残り物料理。語の初出は1791年、ノーフォークの牧師ジェームズ・ウッドフォード(Parson Woodforde)の日記1791年8月29日『Cottage-Pye』。牛肉版が現行の定型。パイ皮でなくマッシュポテトが被覆=最後に揃った食材はジャガイモだが、成り立ちうる最も早い年はその英国への到来(入手可能化1590年代・Gerard's Herbal 1597)であって、庶民の常食化(1770-80年代以降)は普及であって到来ゲートではない。普及は下限を動かさず、cottagers という名と18世紀末という初出時期を説明する文脈にあたる。 なお「俗説: コテージパイ(牛)とシェパーズパイ(羊)の区別は古来の伝統である」という通説は一次史料・学術文献で退けられている。
3つの成立条件
- 食材の条件
- 律速=ジャガイモ(新大陸原産)。マッシュポテト被覆が定義。台帳 ジャガイモ@英国=1597年・幅1590-1597(最遅1597=John Gerard『The Herball』(London 1597) の記載が英国最古/最早1590=1590年代ロンドンでの確認)=成り立ちうる最も早い年は、幅の下端の1590年。マッシュポテト自体は1747年ハンナ・グラス初版に所収。牛ひき肉は在来。※庶民の常食化(1770-80年代以降)は普及であって到来ゲートではない。
- 調理技術の条件
- マッシュポテトの被覆+オーブン/かまど焼き。いずれも当時の家庭で在来技術=律速ではない。
- 場の条件
- 農家小屋(cottage)の庶民が残り肉を活用した家庭料理。名称『cottage』が階層(大衆)を示す。
成立年代と成立条件
食材入手と調理技術の各条件を同じ時間軸に並べた(流通は独立した条件でなく、食材の条件の経路として含め、場の条件は料理が成立し広まった場のことで、年で表せないので図には出さない)。最も遅い食材の条件(1590〜1597年・在地/到来・ジャガイモ)が最後に揃った条件で、成り立ちうる最も早い年はこの条件が揃った年になる。この条件を太線で示す。それより早い要因はその時点で既に充足していた(細線)。成立年代の帯は、その条件が揃った年以降にある。
- 食材入手(流通/在地/加工の経路を内包)
- 太線=最後に揃った条件(最も遅い=成立を縛る)
- 細線=既に充足
- 場の条件(年で表せないので図には出さない)
起源説
定説
貧農のジャガイモ常食化に由来する牛肉のマッシュポテト焼き(名称初出1791) B
「cottage pie(農家小屋のパイ)」の名は18世紀末、英国の田舎の貧しい人々(cottagers)がジャガイモを日常食として使い始めた頃に生まれた。残り肉(当時は牛肉に限らずヴィールも)をマッシュポテトで覆って焼いた庶民の残り物料理。語の初出は1791…続きを読む
「cottage pie(農家小屋のパイ)」の名は18世紀末、英国の田舎の貧しい人々(cottagers)がジャガイモを日常食として使い始めた頃に生まれた。残り肉(当時は牛肉に限らずヴィールも)をマッシュポテトで覆って焼いた庶民の残り物料理。語の初出は1791年、ノーフォークの牧師ジェームズ・ウッドフォード(Parson Woodforde)の日記1791年8月29日『Cottage-Pye』。牛肉版が現行の定型。パイ皮でなくマッシュポテトが被覆=最後に揃った食材はジャガイモだが、成り立ちうる最も早い年はその英国への到来(入手可能化1590年代・Gerard's Herbal 1597)であって、庶民の常食化(1770-80年代以降)は普及であって到来ゲートではない。普及は下限を動かさず、cottagers という名と18世紀末という初出時期を説明する文脈にあたる。
- 支持 James Woodforde, The Diary of a Country Parson, Vol. III: 1788-1792 (Oxford Univ. Press, 1924) — 1791年8月29日(月)『Aug. 29, Monday. Dinner to day, Cottage-Pye and rost Beef.』(p.294 前後・archive.org 全文で逐語確認)=cottage pie の語の最古級用例一次史料
- 支持 Shepherd's pie | Britannica専門事典・公的機関
- 支持 Shepherd's pie — Wikipedia(初出年・料理書出典の索引)ブログ・百科本文
反証
俗説: コテージパイ(牛)とシェパーズパイ(羊)の区別は古来の伝統である D
「コテージパイは必ず牛肉、シェパーズパイは必ず羊/マトン、という区別は昔からの伝統」とする通説。史料上は誤り=両語は登場以来ほぼ互換的に使われ、牛/羊の区別は近代(一部の書き手・現代の英スーパー・レファレンス)が後付けした。両語の登場は約60年ずれる=cott…続きを読む
「コテージパイは必ず牛肉、シェパーズパイは必ず羊/マトン、という区別は昔からの伝統」とする通説。史料上は誤り=両語は登場以来ほぼ互換的に使われ、牛/羊の区別は近代(一部の書き手・現代の英スーパー・レファレンス)が後付けした。両語の登場は約60年ずれる=cottage pie の初出は1791年(Woodforde 日記・肉はヴィール)、shepherd's pie の初出は19世紀半ば=1849年エディンバラ刊 The Practice of Cookery and Pastry(Mrs I. Williamson)で「任意の肉(cold dressed meat of any kind)」。逐語確認したのは同書1854年版(John Greig & Son) p.72 で、1849年版(Forrester) は Wikipedia が挙げる書誌(p.65・Google Books)による。※旧記述の「18世紀末〜19世紀初頭に登場」は Wikipedia 本文(重み1)の緩い要約表現の写しで、shepherd's pie 側に19世紀初頭の用例は挙がっていない(19世紀初頭に記録が残るのは同型の別名料理 Sanders/Saunders=Rundell 1806)。初出年に合わせ「18世紀末〜19世紀半ば」の意味へ是正した。区別の古さは史料で裏付かない。
解説
コテージパイは、18世紀末の英国で生まれた庶民の残り物料理である。名のコテージパイ(cottage pie)は「農家小屋のパイ」を意味し、田舎の貧しい人々(cottagers)がこの料理を食べた暮らしぶりを映している。残った肉をマッシュポテトで覆って焼いた、質素な一皿だった。
パイといってもパイ皮は使わず、覆うのはマッシュポテトである。この土手のような被覆がこの料理の要で、ジャガイモが日々の食べ物になった頃、庶民の一皿として姿を現し、その名を得た。ジャガイモは新大陸原産で、英国の貧しい農村の人々がこれを日常的に口にするようになるのが18世紀の末にあたる。
名が記録に現れるもっとも古い例は1791年、ノーフォークの牧師ジェームズ・ウッドフォード(Parson Woodforde)の日記である。同年8月29日、月曜の食卓を書きとめた一行に「Dinner to day, Cottage-Pye and rost Beef.(今日の食事はコテージパイとローストビーフ)」とある。現在の定型は牛ひき肉を用いるが、被覆にマッシュポテトを使う点は変わらない。
検証ストーリー
コテージパイをめぐっては、「コテージパイは必ず牛肉、シェパーズパイは必ず羊肉。この区別は昔からの決まりだ」という通説が広く信じられている。だが史料の上では、この区別に古い由緒はない。
二つの名が現れた時期は約60年ずれるが、どちらも登場して以来ほぼ互換的に使われてきた。牛か羊かで呼び分ける習わしは、後の時代の書き手や、現代の英国のスーパー、参考書などが後付けしたものである。
そのことは初出の中身が示している。コテージパイの最も古い記録(ウッドフォードの日記、1791年)が指したのは、牛肉ではなくヴィール(子牛肉)だった。一方シェパーズパイの語が現れるのは19世紀で、1849年ごろエディンバラで出た料理書『The Practice of Cookery and Pastry』が最初とされる。いま本文をたどれるのはその1854年版で、そこでは肉の種類を問わずこの名が使われている。牛と羊をきっぱり分ける区別は、料理が生まれた当初にはなかった。
検証ログ 8 件・押すと開く
| 日付 | 結果 | 確からしさの変化 | 主張 / 出典 |
|---|---|---|---|
| 2026-07-16 | 支持 | —→B |
名称初出は1791年、Parson Woodfordeの日記『Cottage-Pye』(初出年=遅くともこの年に存在)。18世紀末に英国の庶民がジャガイモを常食化した文脈で成立。牛肉のマッシュポテト被覆焼き。 出典:
Shepherd's pie | Britannica専門事典・公的機関
|
| 2026-07-16 | 反証 | —→D |
『コテージパイ=牛/シェパーズパイ=羊の区別は古来の伝統』という俗説は史料上誤り。両語は登場以来ほぼ互換的で、牛/羊の区別は近代(現代の一部書き手・英スーパー)の後付け。cottage pie初出(1791)はヴィール、shepherd's pie初出(1849 The Practice of Cookery and Pastry)は任意の肉。 出典:
Shepherd's pie — Wikipedia(初出年・料理書出典の索引)ブログ・百科本文
|
| 2026-08-15 | 支持 | B→B |
コテージパイの語の文献初出は1791年8月29日の James Woodforde 日記『Dinner to day, Cottage-Pye and rost Beef.』=一次史料(Diary of a Country Parson vol.III, 1924版 archive.org 全文)で逐語確認。初出年(遅くともこの年に存在)であって発祥年ではない。
|
| 2026-08-15 | 反証 | D→D |
コテージパイ=牛/シェパーズパイ=羊の区別は古来の伝統である(俗説)
|
| 2026-08-15 | 反証 | D→D |
shepherd's pie の語は19世紀初頭に登場した(説明文の幅表記『18世紀末〜19世紀初頭』の後半部分) 出典:
Shepherd's pie — Wikipedia(初出年・料理書出典の索引)ブログ・百科本文
|
| 2026-08-28 | 支持 | B→B |
成立下限1597年は、律速のジャガイモが英国で使えるようになった年の代表値(1597年)をそのまま写した値だった。その到来の幅は1590年〜1597年で、下限に入るのは下端の1590年。7年ぶん早い側へ引き直し、『1590年〜1597年には存在しなかった』という、到来の証拠が支えない否定を取り下げた
|
| 2026-08-28 | 不明 | —→— | — |
| 2026-09-07 | 支持 | B→B |
英国でジャガイモが入手可能になった年代の幅の最遅は1597年である(ゲート自由文が書いていた1600ではない)
|
構成素材
この料理を構成する素材の成立史へ。
関連する料理
同じ食材を共有(ジャガイモ)
- カウルウェールズ
- シェパーズパイイングランド
- サンデーローストイギリス
- フィッシュパイイギリス
- コーニッシュ・パスティイギリス
- スペイン風オムレツスペイン
- チャンプアイルランド
- アイリッシュシチューアイルランド
- コルカノンアイルランド
- ラグムンクスウェーデン
ほか 66 品。 ジャガイモの食材ページで一覧を見る →