食材から辿る / 旧大陸

豚肉 素材 時期 B検証済

成立年代 前8500〜

豚肉が、いつ・どこで食べ物として成立し、各地へどう伝わったかをまとめています。 原産地での成立を3ゲート(食材入手・調理技術・場)で示し、その後の各地への到来を記録でたどります。

近東・南東アナトリア(チャヨヌ・テペシ等)で前9500〜6500年に飼養が進み前8000年ごろ家畜化が明瞭化(Price & Hongo 2020)。東アジア黄河流域で前6600年ごろ独立に家畜化(Wang 2017)。二重家畜化。食用は入手=家畜化と同時

3ゲート

食材入手ゲート
家畜化(野生イノシシ Sus scrofa を家畜化)=前8500年ごろ(近東アナトリア)
調理技術ゲート
火による加熱調理(焼く・煮る)。肉調理は狩猟段階から在り自明
場ゲート
食材入手と同年(豚肉の食用は入手=家畜化と同時に成立。場ゲートは退化)

豚肉はどこから広がったか

豚は、たがいに独立した二つの家畜化の歴史をもつ動物である。もとは野生のイノシシ(Sus scrofa)で、これが別々の土地で、別々の人々の手によって二度、家畜になった。ひとつは近東――南東アナトリアである。チャヨヌ・テペシの遺跡では、およそ紀元前9500年から6500年ごろにかけて、幼い個体にかたよった骨が出土し、早い時期からの飼養をうかがわせる。人の手のもとで殖える豚は、遅くとも紀元前8500年ごろにはこの地にいた。歯や骨が野生種より小さくなる変化とあわせて、紀元前8000年ごろまでには明瞭な家畜化の兆しが現れる(プライスとホンゴウの2020年の総説による)。その原基となったのは北メソポタミアの野生イノシシだった。

この年代は、骨の大小の変化だけを頼りにしたものではない。出土した骨から取り出した古代のDNAと、骨の輪郭を数値にする形の計測も、近東の家畜豚が紀元前8500年にさかのぼることを指している。同じ手法をあてると、野生種と見分けのつく体つきの豚がチャヨヌ・テペシに現れるのは紀元前6800年ごろで、人が豚を囲いはじめた時期と、豚の姿かたちが変わりきる時期とのあいだには千七百年ほどの隔たりがある。もうひとつの家畜化は東アジア、黄河流域である。この二つは、どちらか一方から広まったのではなく、離れた大地でそれぞれに始まった。

黄河の豚

東アジアの家畜化は、近東とはまったく別の系統として立ち上がった。黄河流域の賈湖(かこ)遺跡では、少なくとも紀元前6600年ごろの豚が確認されており、古DNAと動物考古学の研究は、これが近東の豚とは独立した系統であることを示している(王らの2017年の研究)。賈湖から出た豚の臼歯を集め、その輪郭の形を野生個体と比べた研究も、同じ紀元前6600年という年代に行き着いた。南荘頭や磁山を含む一帯、さらに華南の別の遺跡群でも、それぞれに豚が人の暮らしのなかへ入っていった。以後、豚は中国の食文化の中心にすわり続ける動物となった。

到来しても根づかなかった土地

家畜化の生まれた近東は、のちに豚を避ける土地へと変わっていった。豚はどこへでも運ばれうる動物だが、運ばれた先で必ず食べられ続けるとはかぎらない。西アジアや北アフリカの多くでは、宗教上の理由から豚肉が食卓から遠ざけられ、家畜としての豚もそこでは根を下ろさなかった。動物が届くことと、その肉がその土地の食習慣として定着することは、別のことだった。豚のように古く広く家畜化された動物であっても、この二つは一致しないことがある。

旧大陸から新大陸へ

長らく豚は旧大陸の動物だった。それが大西洋を越えるのは大航海時代である。1493年のコロンブスの二度目の航海で豚が新大陸へ初めて渡り、以後、征服者たちの遠征に連れられて南北アメリカへ広がっていった。ブラジルには1500年ごろ、メキシコにはコルテスの遠征(1519〜1521年)とともに、現在のアメリカ合衆国南部には1539年ごろ、ラプラタ地域には1536年以降と、豚は数十年のうちに二つの大陸をおおった。ピサロがペルーを征服した1532年の遠征にも豚の群れが随っており、ペルーに豚が行きわたるのは1540年ごろである。以後この地では、豚肉もラードも先住民とスペイン人の双方が求める品となり、ポトシの鉱山町がその大きな引き受け先になった。もともと家畜化されていなかった土地に、豚は人とともに一気に入り込んだのである。

海峡の華僑と日本の食卓へ

近代に入ると、豚はさらに新しい土地の食卓へと届く。十九世紀、華南の福建や潮州から東南アジアへ渡った華僑の労働者たちは、豚骨や豚肉を用いる食習慣を携えてやってきた。海峡植民地のシンガポールでは、こうした移民たちの手で豚肉料理が根づいた。1934年の南洋商報の記事を引く資料によれば、1925年ごろのシンガポールでは豚肉のスープ料理が労働者に親しまれていたという。日本では、豚肉が正面から食卓にのぼるのはさらに遅い。1872年、明治の世に肉食が公に解禁され、ここから日本の豚肉食が本格的に始まった。二つの大地で別々に家畜となった豚は、こうして時代ごとに新しい海を越え、いまや世界じゅうの食卓にのぼる動物となっている。

各地への伝来 41

各地で食べ物として定着した時期の記録です。地域によっては、それに先立つ物理的な到来(観賞用など、食用より前の前史)が含まれることがあります。

  • 前9500〜前8000頃 アナトリア 在来
  • 前7000頃 ギリシャ 在来
  • 前6600〜前5000頃 中国 在来
  • 前6000頃 コーカサス 在来
  • 前6000〜前5000頃 バルカン半島 交易路
  • 前6000頃 西欧 在来
  • 前5500〜前5000頃 ドイツ 在来
  • 前5500頃 ポーランド 在来
  • 前5400〜前5000頃 ウクライナ 在来
  • 前4000〜前1000頃 スウェーデン 在来在地栽培
  • 1000頃 北欧 在来
  • 前3900〜前3000頃 アイルランド 在来
  • 前3000頃 イングランド 在来
  • 前3000頃 アルザス 在来
  • 前3000頃 スロベニア 在来
  • 前2000頃 フィリピン 在来
  • 前2000頃 ベトナム 在来
  • 前2000頃 東南アジア 在来
  • 前1000頃 スペイン 在来
  • 前100頃 朝鮮半島 在来
  • 1000頃 バイエルン 在来在地栽培
  • 1350〜1500頃 沖縄 交易路
  • 1500頃 ブラジル 植民地交易
  • 1505〜1509頃 プエルトリコ 新大陸交換
  • 1511〜1514頃 キューバ 新大陸交換
  • 1519〜1521頃 メキシコ 新大陸交換
  • 1522〜1550頃 中米 植民地交易
  • 1525〜1540頃 コロンビア・ベネズエラ 植民地交易流通
  • 1532〜1560頃 ペルー 新大陸交換
  • 1536〜1580頃 ラプラタ地域 植民地交易
  • 1539〜1565頃 米国 植民地交易
  • 1539〜1607頃 米国南部 新大陸交換
  • 1540〜1541頃 チリ 植民地交易
  • 1604〜1620頃 カナダ 植民地交易
  • 1620〜1700頃 ケベック 植民地交易
  • 1668〜1700頃 グアム 植民地交易
  • 1769〜1777頃 ニュージーランド 植民地交易
  • 1800頃 スロベニア 在来流通
  • 1819〜1900頃 シンガポール 在来
  • 1872頃 日本 日本開国(明治の肉食解禁)
  • 1911〜1924頃 室蘭 日本開国(明治の肉食解禁)在地栽培

豚肉の到来が成立を縛った料理 33

豚肉が届く前には成り立たなかった料理です。到来年が、その料理の物理的な下限になります。

成立年不明 2

成立の下限(いつ以降か)が史料から決まらない料理。年代順には置けないのでここへ分けた ── いちばん古いという意味ではない。この食材の到来が下限を与えることは変わらないが、料理の側の成立年はまだ決まっていない。 「遅くとも◯年までに」はその年までに存在したことが押さえられているという意味で、その年に成立したという意味ではない。

豚肉を使う料理 146

成立年不明 11

成立の下限(いつ以降か)が史料から決まらない料理。年代順には置けないのでここへ分けた ── いちばん古いという意味ではない。 「遅くとも◯年までに」はその年までに存在したことが押さえられているという意味で、その年に成立したという意味ではない。

← ほかの食材を見る