食文化圏 / 西欧

英国・アイルランド料理の成立史

西欧の食文化圏「英国・アイルランド」に属する料理 49 品の成立史。 いつ・どこで成立したかを、3ゲート(食材入手/調理技術/場)・確度2軸・検証ログで根拠まで辿れます。

この食文化圏の指紋 DB由来のデータ集計(装飾でなく事実)

この圏に特徴的な食材全圏平均より偏って多く現れる律速食材(=この圏に特徴的な素材)。汎用食材は突出しないので外れます。

  • 全圏平均の約 35.29 倍・2 品で律速(=この圏で偏って多く使われる食材)。
  • 全圏平均の約 5.5 倍・12 品で律速(=この圏で偏って多く使われる食材)。

成立年代の分布成立年代の分布(最古 前1200 年〜最新 1970 年)。

  • 先史・古代 1
  • 中世 6
  • 近世 23
  • 近代 14
  • 現代 4

食材は在来か外来か律速食材が在来(もとから現地にあった)か、外来(交易・開国・植民地交易などで届いた)かの比率。

在来 0 外来 24

所属する料理 49

  • 定番 ライスプディング イギリス 1290–1390 時B説B

    今日のライスプディングはナツメグを振った素朴な家庭のデザートだが、その始まりは中世イングランドの宮廷で、輸入された高価な米を乳で煮た四旬節向けの贅沢な一皿だった。

  • 定番 ローストビーフ 英国 1400–1731 時B説B

    上等な牛の腰肉に感激した英国王が、肉そのものを騎士に叙して『サー・ロイン(Sir Loin)』と名づけた——ローストビーフの名の由来として広く知られるこの逸話は、後世に生まれた民間語源であり、語源学が退けてきた俗説である。名前の物語は作り話だが、質素な焼き肉が英国の国民食へと育った歩みには確かな史料がある。

  • 定番 スコーン 英国 1513–? 時C説B

    スコーンはもともとオート麦を鉄板で焼いた素朴な菓子だった——よく語られるこの出自は、名前が書き留められた最古の記録と食い違う。1513年と1549年、この語が現れる最初の二つの文は、どちらも小麦粉で作ると明記している。

  • 定番 アイリッシュシチュー アイルランド 1600–1814 時B説B

    時代を超えた素朴な農民料理と思われがちなアイリッシュシチューだが、その要となるジャガイモは新大陸から来た作物で、いまのかたちが定まったのは18世紀後半から19世紀初頭のことである。

  • 定番 英国紅茶 英国 1700–1730 時B説B

    ポルトガルから嫁いだ王妃キャサリンが英国に紅茶をもたらした——よく語られるこの発祥譚は、王妃の来英より前に出た新聞広告と日記の前で崩れる。しかも彼女の時代のロンドンが飲んでいた茶は主に緑茶で、英国が紅茶の国になるのは18世紀に入ってからだった。

  • 定番 ヨークシャープディング イングランド 1737–? 時B説B

    日曜のロースト肉に添えて焼く、ふっくらとふくらんだイングランドの生地料理。「ヨークシャー」の地名を冠するが、その名がついたのは一七四七年の料理書でのことで、料理そのものはそれ以前から「dripping pudding(滴り落ちる脂のプディング)」の名で作られていた。

  • 定番 コテージパイ イギリス 1770–1800 時B説B

    コテージパイは、味付けした牛ひき肉をマッシュポテトで覆って焼いた英国の家庭料理である。「牛肉はコテージパイ、羊肉はシェパーズパイ」という区別は昔からの伝統と思われがちだが、史料をたどると近代の後付けにすぎない。二つの名は、もともと肉を選ばずほぼ同じ料理を指していた。

  • 定番 シェパーズパイ イングランド 1780–1870 時B説B

    残り肉をマッシュポテトで覆って焼くイングランド発祥の倹約パイ。アイルランド農民が生んだ料理という語り口も、牛肉なら別名・羊肉ならこの名という肉の区別も、実は後から加わった説明で、料理と名前は別々の道をたどってきた。

  • 定番 フィッシュ&チップス 英国 1840–1870 時A説B

    揚げた魚と揚げたジャガイモを紙に包んだ英国の国民食。最初に二つを並べて売った店がロンドンのマリンか、モスリーのリーズか——その問いは一次史料を欠いたまま、いまも決着していない。

  • 定番 フィッシュ・アンド・チップス イングランド 1860–? 時B説C

    世界で最初にフィッシュ・アンド・チップスを売ったのはロンドンのマリンか、ランカシャーのリーズか——英国の国民食をめぐるこの有名な争いは、じつは発明者を決める争いではない。衣をつけて揚げた魚も、油で揚げたジャガイモも、二人が店を構えるより前に英語で書き留められていた。

  • 定番 イングリッシュブレックファースト(イングランド) 1861–? 時B説B

    フルイングリッシュブレックファーストは中世の郷紳の食卓に遡るという話が語られる。しかし、焼き物を伴う大きな朝食が英国に現れるのは一九世紀ヴィクトリア朝で、それより古い様式は史料に見当たらない。

  • 定番 イングリッシュブレックファースト(イギリス) 1861–1950 時B説B

    イングリッシュブレックファーストを、中世の地主階級が狩猟の前にとった古来の伝統とする話は、史料の裏づけを欠く後世の作り話である。この国民的な朝食が形をなしたのは、19世紀ヴィクトリア朝の中産階級の食卓だった。

  • 定番 コンビーフ 英国 1873–1950 時B説C

    コンビーフとキャベツはアイルランドの古い郷土料理だ、という話はよく知られている。だが史料はその逆を語る。古いアイルランドで牛肉は富と聖性の象徴で日々の食卓には乗らず、いまのコンビーフはむしろ海を渡った移民がニューヨークで作り上げた新しい料理だった。

  • ブラックプディング イギリス ?–1450 時B説B

    豚や牛の血をオートミールで固めた、英国の血のソーセージ。その起源を古代ギリシアのホメロス『オデュッセイア』に求める話は広く語られるが、あの一節が描くのは血のソーセージという料理の型であって、穀物をたっぷり含む英国のブラックプディングそのものの誕生ではない。

  • ゆでベーコン アイルランド -1200–? 時C説C

    塩漬けの豚を煮てキャベツと食べるゆでベーコンは、アイルランドの食卓を代表する家庭料理。だがこれをアイルランド固有の発明とみるか、ヨーロッパに広く根づいた農民料理の一地方型とみるかは、今も決着していない。

  • ポークパイ 英国 1390–? 時B説B

    ポークパイは近代の発明でも、名物として名を残す町メルトン・モウブレイで生まれた料理でもない。中世の宴席で肉を守り運んだ「食べられる器」の、直系の子孫である。

  • ハギス スコットランド 1400–1700 時B説C

    スコットランドの国民料理ハギス。だが「古来スコットランド固有の料理」という看板は史料の裏づけを欠く。内臓プディングは南北ブリテンに古くから共通し、印刷された最初のレシピはむしろイングランド側にあり、発明者は特定できない。

  • ホワイトプディング アイルランド 1400–? 時C説B

    ホワイトプディングは、血を使わずオート麦や獣脂を腸に詰めた、アイルランドとスコットランドの素朴な腸詰めである。血入りのブラックプディングと対をなす一皿だが、華やかな発祥の物語は持たない。英諸島の農村と精肉の現場で、身近な素材から少しずつ形をとった保存食である。

  • トライフル イギリス 1585–1751 時B説B

    『トライフル』の名が印刷物に現れるのは1585年。だがその頃のトライフルは香りづけした濃厚なクリームで、いまのような酒に浸したスポンジとカスタードを重ねた層状のデザートではない。名前のほうが、料理より先に存在していた。

  • コルカノン アイルランド 1680–1735 時B説B

    アイルランドの秋を彩る、ケール(あるいはキャベツ)とじゃがいもを潰し合わせ、バターと青ねぎを混ぜたマッシュ料理。古代からのアイルランド料理として語られることも多いが、この一皿はじゃがいもがこの島の食卓に根を下ろしてはじめて姿を現した、比較的若い民衆の味である。

  • カンバーランドソーセージ 英国・カンブリア 1700–1850 時C説B

    カンブリアの食卓を彩る、連結せずに長く渦を巻いた粗挽きの豚ソーセージ。「チューダー朝から五百年の歴史」とうたわれてきたが、その古さを物語る当時の記録は見当たらず、胡椒の強く効いた現在の一皿はもっと後の時代に姿を現した。

  • コドル アイルランド 1700–1800 時C説B

    コドルは、ソーセージとベーコン、ジャガイモ、玉ねぎを弱火で長く煮込むダブリンの一鍋料理。「風刺作家ジョナサン・スウィフトの好物で、その作品にも登場する」という文学的な由緒がよく語られるが、この由来話はスウィフトの著作に裏づけをもたない後世の言い伝えである。

  • バームブラック アイルランド 1700–? 時C説B

    バームブラックは、ハロウィンの夜に指輪を焼き込んで運勢を占うアイルランドの祝祭パン。古代ケルトのサウィン祭に遡る太古の食としてよく語られるが、記録としてさかのぼれる最も古いレシピ(遅くとも1875年までに書かれた手稿)に干しぶどうは入っておらず、名の「斑(ブラック)」はキャラウェイの種だったのかもしれない。

  • ベーコン・アンド・キャベツ アイルランド 1700–? 時C説B

    「聖パトリックデーに食べるコンビーフ&キャベツこそアイルランドの国民料理」——そう信じる人は多いが、本国で受け継がれてきたのは豚肉を使うベーコン&キャベツであり、牛肉のコンビーフ版は海を渡ったアメリカで生まれた別の料理である。

  • ローストビーフとヨークシャープディング 英国 1737–1747 時B説B

    牛のローストと、その下で脂を受けて焼き上げる生地——この取り合わせは、古くから一体の英国伝統として語られてきた。だが生地を焼く最古のレシピ(1737年)が使うのは羊の肩肉で、プディングは肉とは別に、しかも肉より先に単独で供される増量食だった。

  • バンガーズ・アンド・マッシュ 英国 1747–1919 時B説B

    加熱するとソーセージが破裂して爆ぜる——だから「バンガー(爆竹)」。この呼び名を第二次大戦の配給に結びつける話が広く語られるが、年代が合わない。破裂するソーセージが記録に残るのは、それより前の第一次大戦期である。

  • ボクスティ アイルランド 1750–? 時B説B

    ボクスティは、生のじゃがいもをすりおろして焼くアイルランドのパンケーキである。華やかな発明者も起源譚も持たず、じゃがいもが貧しい家の主食になっていった18世紀の農村から、名もなく生まれた一皿だ。

  • シーフードチャウダー アイルランド 1751–1990 時C説B

    クリーム仕立ての魚介スープにブラウンブレッドを添えるシーフードチャウダーは、アイルランドの沿岸パブを代表する一皿だ。だが「数世紀来の漁村の伝統」という触れ込みとは裏腹に、これは大西洋を越えてきた煮込みが20世紀のアイルランドで定番となった、比較的新しい料理である。

  • トード・イン・ザ・ホール 英国 1762–? 時B説B

    穴から顔を出すヒキガエルに見立てた愛嬌ある名を持つが、その正体は、安い肉を膨らむ生地でかさ増しした倹約料理である。名が印刷物に現れた1762年は料理が生まれた年ではなく、遅くともその頃には食べられていたことを示す目印にすぎない。

  • バブル・アンド・スクイーク イギリス 1762–? 時B説B

    バブル・アンド・スクイークは、日曜のローストで残った野菜をフライパンで炒め直す、イギリスの家庭に根づいた倹約料理である。おどけた名は、熱した鍋のなかで食材が立てる音——ぶくぶくと沸く音と、キュッと鳴る音——からきている。

  • カウル ウェールズ 1770–1800 時B説B

    ウェールズの国民食カウルは、塩漬けの肉と季節の根菜を大釜で終日煮込んだ素朴なスープだ。「先史の焼石調理にさかのぼる最古の料理」と紹介されることも多いが、いま食卓に並ぶ姿は、思われているほど古いものではない。

  • サンデーロースト イギリス 1770–? 時B説C

    イギリスの日曜の食卓に欠かせないサンデーロースト。ヘンリー7世の近衛兵ビーフィーターの日曜ローストに始まるという中世起源の言い伝えがあるが、ヨークシャー・プディングとローストポテトを伴う今の一揃いが定着したのは、18世紀から19世紀にかけてのことである。

  • 英国式カレー(カレー粉・Anglo-Indian) イギリス 1780–1810 時B説B

    英国式カレーは、インドの『カレー』という単一の料理がそのまま英国に渡ったものだと思われがちだ。しかしその姿は、英領期の英国が瓶詰めの粉で香辛料の配合を固定し、自分たちの台所に合わせて作り直した翻案料理である。

  • コーニッシュ・パスティ イギリス 1800–? 時B説B

    中世からある折りパイの一種に見えて、牛肉とじゃがいもを厚い縁で捻じ込んだいまのコーニッシュ・パスティは、19世紀コーンウォールの錫鉱山でかたちを得た比較的新しい携行食である。錫鉱夫の妻が坑内食に作り、厚い縁は汚れた手の取っ手だった——広く語られるこの由来譚は、同時代の史料に乏しい後世の彩りである。

  • フィッシュパイ イギリス 1800–1861 時B説B

    白身魚を白ソースで和え、なめらかなマッシュポテトの毛布で覆って焼く英国のフィッシュパイ。いかにも古くから変わらぬ英国の家庭の味に見えるが、この「ポテトで覆う」姿が定まったのはヴィクトリア朝の中ごろ、じゃがいもが庶民の常食になってからのことである。

  • ソーダブレッド アイルランド 1830–? 時B説B

    アイルランドの素朴なソーダブレッドは「太古から伝わる島の食べ物」と語られがちだが、重曹(重炭酸ソーダ)で膨らませるこのパンが生まれたのは、化学膨張剤が台所に届いた1830年代のことだった。

  • ステーキ・アンド・キドニーパイ イギリス 1839–1861 時B説B

    牛肉と牛の腎臓をじっくり煮込み、パイ生地で包んで焼いた英国の家庭料理。「ビートン夫人が考案した」としばしば語られるが、この組合せは彼女が世に出したレシピより前から、ロンドンの屋台でプディングとして売られていた。

  • アルスターフライ 北アイルランド(英国) 1840–? 時C説C

    北アイルランドを代表する朝食アルスターフライを「何世紀も受け継がれた古来の伝統」とみる見方は、史実の裏づけを欠く後付けの由緒である。皿を特徴づける焼きパンも、名物としての売り出しも、けっして古いものではない。

  • コンビーフとキャベツ アイルランド 1845–1900 時B説B

    コンビーフとキャベツがアイルランド本国に伝わる古い郷土料理だ、という広く信じられた話は、史料の裏づけを欠く。この一皿は、大飢饉のあとに海を渡ったアイルランド系移民が、ニューヨークの下町で本国のベーコンを別の肉に置き換えて生み出した、まったく新しい料理である。

  • ヴィクトリアスポンジ イングランド 1861–? 時B説B

    アルバート公を亡くした喪の女王を悼んで名づけられた——ヴィクトリアスポンジの由来として広く語られるこの物語は、ケーキの名を載せた料理書が公の死より前に刷り上がっていた、という一点で崩れる。

  • ソルトビーフベーグル ロンドン(英国) 1880–? 時C説B

    ロンドン・イーストエンドのユダヤ系デリで育った、塩漬け牛肉を輪型パンにはさむ一皿。ブリックレーンの店が掲げる「1855年創業=世界最古のベーグル店」という由緒は、確かな史料の裏づけを欠く宣伝上の物語である。

  • ビーフ・ウェリントン 英国 1899–1960 時B説C

    ワーテルローの英雄ウェリントン公の料理人が考案した、あるいは公が行軍食として好んだ——ビーフ・ウェリントンにまつわる有名なこの由来話は、公と料理を結ぶ同時代の記録を欠く後付けの命名譚である。

  • マーマイト・トースト 英国 1902–? 時A説B

    英国の朝食の定番マーマイト・トーストには、誰か一人の発明にまつわる逸話も、ドラマチックな起源譚も存在しない。この一皿の始まりは、1902年に酵母エキスの製品「マーマイト」が世に出た、その一点に画然と結びついている。

  • プラウマンズ・ランチ イギリス 1957–1960 時B説B

    中世の畑を耕す農夫が食べ継いだ伝統食——プラウマンズ・ランチにまとわりつくこの由緒は、後世の広告が仕立てた作り話である。パンとチーズとピクルスの素朴な盛り合わせは、20世紀半ばのパブでようやくこの名を与えられた。

  • チキン・ティッカ・マサラ 英国 1960–1975 時B説C

    「1971年、グラスゴーの料理人が客の一皿に缶のトマトスープをとっさに足して生まれた」——チキン・ティッカ・マサラの有名な誕生譚は、当の関係者まわりが作り話だと認めて崩れている。

  • スティッキー・トフィー・プディング イギリス 1970–? 時B説C

    デーツのスポンジに熱いトフィーソースをかけたイギリスの温かいプディング。1970年代に湖水地方のカントリーハウスホテルで供されて全英に広まったが、それ以前の考案を名乗る店がいくつもあり、最初の一皿を一つに絞ることはできない。

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