食材から辿る / 在来

牛乳 素材 時期 B検証済

成立年代 前6500〜

牛乳が、いつ・どこで食べ物として成立し、各地へどう伝わったかをまとめています。 原産地での成立を3ゲート(食材入手・調理技術・場)で示し、その後の各地への到来を記録でたどります。

3ゲート

食材入手ゲート
家畜化(ウシ Bos taurus/近東・約-8500年。搾乳可能な家畜の成立が前提)
調理技術ゲート
搾乳・生乳利用=家畜化に続く。土器脂質残渣で北西アナトリアの搾乳を約-6500年に確認
場ゲート
家庭・牧畜社会=食材入手と同年

牛乳はどこから広がったか

牛乳は、牛が家畜になっただけでは手に入らない。肉や皮のために飼われていた家畜から、生きているあいだ繰り返し得られるものを引き出す——搾乳という営みが加わって、はじめて乳は食べものになる。牛が飼い慣らされたのは近東で、いまのアナトリア東部から上部ユーフラテスにかけての一帯、およそ紀元前8500年ごろのことだった。そこから搾乳が始まるまでには、さらに二千年ほどの隔たりがある。

その痕跡は土器に残った。新石器時代の土器の壁に染み込んだ脂肪を化学分析すると、獣脂とは区別できる乳の脂肪の跡が読み取れる。この方法で最も古い搾乳の証拠が見つかったのは北西アナトリアで、年代は紀元前6500年ごろ(エヴァシェッドらの2008年の報告)。同じ研究は、南東ヨーロッパのバルカン半島でも紀元前6千年紀には乳が使われていたことを示している。メソポタミアの平野でも、同じころには乳が暮らしに入っていた。

農耕とともに西へ、そして北の縁へ

近東で始まった牧畜は、麦や豆とひとそろいになってヨーロッパへ運ばれた。フランスの地に牛や羊が入り、乳を使う暮らしが根づいたのは紀元前5000年ごろである。さらに北——農耕がようやく成り立つ土地の縁でも、人は乳を利用していた。北ヨーロッパやフィンランドの遺跡から出た土器の脂質分析(クランプらの2014年の研究)は、紀元前2500年ごろのこの寒冷な一帯で酪農が営まれていたことを明らかにした。畑の実りが乏しい土地ほど、家畜から繰り返し得られる乳の値打ちは大きかった。

北大西洋の島々にも、乳は人とともに渡った。アイスランドがノルウェー方面からの入植で開かれた874年以降、島には家畜と、乳を発酵させて保たせる北欧の作法が持ち込まれている。

草原と高原の乳

ユーラシアの草原では、乳は主食に近い位置を占めた。モンゴル方面では紀元前3000年ごろから乳を利用する牧畜が営まれ、以後五千年にわたって東ユーラシアの草原の人々を支え続けた(ウィルキンらの2020年の研究)。作物の育たない草原で、家畜の群れは歩く食糧庫だった。

アフリカでも同じことが起きている。エチオピア高原では紀元前1600年ごろまでに牛・羊・山羊を組み合わせた家畜飼養が営まれ、東アフリカの西ケニア一帯には紀元前1500年ごろ、牛を追う牧畜の暮らしが広がった。北インドでも、乳は古くから食文化の中心にあり続けている。

牛の乗った船

アメリカ大陸に乳を出す家畜はいなかった。だから新大陸で牛乳が飲まれるようになるのは、スペイン人とポルトガル人が牛を船に積んで大西洋を渡ってからである。ペルーには1540年ごろ、コロンビアやベネズエラの谷には1550年ごろ、チリとブラジルにも16世紀半ばに牛が入り、ラプラタ地域の草原では17世紀半ばまでに牛の群れが広がった。台湾で乳牛の飼育と乳を飲む習慣が根づくのは、さらに遅く19世紀末から20世紀初めにかけてのことである。

搾ったばかりの乳は日を置かずに傷む。だから牛乳という食材は、瓶や樽に詰められて遠くへ運ばれるのではなく、乳を出す家畜そのものが歩き、あるいは船に乗った先にだけ現れた。牛乳の広がりは、そのまま牛の広がりだったのである。

各地への伝来 17

各地で食べ物として定着した時期の記録です。地域によっては、それに先立つ物理的な到来(観賞用など、食用より前の前史)が含まれることがあります。

  • 前6600〜前6000頃 アナトリア 在来
  • 前6000頃 イラク 在来
  • 前6000〜前5500頃 バルカン半島 在来
  • 前5500〜前5000頃 フランス 在来在地栽培
  • 前3000頃 モンゴル 在来
  • 前2500頃 フィンランド 在来
  • 前2500頃 北欧 在来
  • 前1600頃 エチオピア高原 在来
  • 前1500〜前1000頃 西ケニア 在来
  • 874〜930頃 アイスランド 植民地交易
  • 1532〜1560頃 ペルー 植民地交易
  • 1534〜1600頃 ブラジル 植民地交易
  • 1538〜1600頃 コロンビア・ベネズエラ 新大陸交換
  • 1541〜1580頃 チリ 植民地交易
  • 1573〜1650頃 ラプラタ地域 新大陸交換
  • 1870〜1908頃 台湾 植民地交易
  • 時期不明 北インド 在来

牛乳の到来が成立を縛った料理 10

牛乳が届く前には成り立たなかった料理です。到来年が、その料理の物理的な下限になります。

牛乳を使う料理 71

成立年不明 7

成立の下限(いつ以降か)が史料から決まらない料理。年代順には置けないのでここへ分けた ── いちばん古いという意味ではない。 「遅くとも◯年までに」はその年までに存在したことが押さえられているという意味で、その年に成立したという意味ではない。

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