食材から辿る / 旧大陸
シナモン 素材 時期 C検証済
シナモンが、いつ・どこで食べ物として成立し、各地へどう伝わったかをまとめています。 原産地での成立を3ゲート(食材入手・調理技術・場)で示し、その後の各地への到来を記録でたどります。
スリランカ(セイロン島)原産。原産地での採取・使用の開始年は不詳(中継商人が供給元を秘匿)。文献記録上はおそくとも前430年ごろ(ヘロドトス)までに古代地中海で香辛料として確立。初出年=前430年
3ゲート
- 食材入手ゲート
- 採取(スリランカ原産の常緑樹セイロンニッケイ Cinnamomum verum の樹皮を採取)。原産地での採取開始年は不詳
- 調理技術ゲート
- 樹皮の剥皮・乾燥(内樹皮を剥ぎ巻いて乾かす加工)で香辛料化
- 場ゲート
- 香辛料としての使用が成立した場。原産地スリランカでの採取・使用年は記録に残らず(商人が原産地を秘匿)、記録上は古代地中海=エジプトで香料・防腐に用いられ、おそくとも前430年ごろ(ヘロドトス『歴史』)までに確立
シナモンはどこから広がったか
シナモンは、スリランカ(かつてのセイロン島)を原産とする常緑樹の樹皮からとる香辛料である。植物としては複数の近縁種があり、スリランカに固有の真正シナモン(セイロンニッケイ Cinnamomum verum)が、香りのやわらかな「本来のシナモン」とされる。中国南部や東南アジアに産する近縁のカッシア(シナニッケイ C. cassia)はこれとは別の種で、香りが強く値も安いため世界の市場ではしばしば混同されてきたが、狭い意味でのシナモンは、あくまでこのインド洋の島の樹に始まる。
原産地を隠した香辛料
古代の地中海世界には、すでにシナモンが届いていた。エジプトでは防腐や香料に用いられ、香り高いこの樹皮は遠い東方からの貴重な品として珍重された。ただし当時の地中海の人々は、それがどこで採れるのかを知らなかった。原産地の島と地中海のあいだには、紅海やアラビアを結ぶ中継の商人たちがいて、彼らは仕入れ先を決して明かさなかったからである。ギリシアの歴史家ヘロドトスは、前430年ごろにまとめた『歴史』のなかで、シナモンが巨大な鳥の巣から採れるといった不思議な話を書きとめている(第3巻)。これは原産地を伏せるために流された作り話の名残と考えられ、商人たちが供給元を秘匿していたさまをよく物語っている。おそくとも前430年ごろには地中海世界にシナモンが知られていたことは、この記録からうかがえる。ヘブライ語聖書にも香料としての言及があり、地中海への到来はさらにさかのぼる可能性があるが、その年代には議論がある。
ポルトガルとオランダが握った島
長いあいだ、シナモンの原産地はヨーロッパの人々には謎のままだった。それが明るみに出て、交易の主導権が大きく動くのは大航海時代である。海路でインド洋に進出したポルトガルは、17世紀の初めにセイロン島のシナモン交易を握った。真正シナモンはこの島にしか産しないため、島を押さえることは、この香辛料そのものを押さえることを意味した。やがて17世紀の半ば、オランダの東インド会社がポルトガルに代わってセイロンを支配し(1658年から1796年まで)、島のシナモンをヨーロッパへ供給する立場を独り占めした。かつて中継の商人が隠していた原産地は、いまや植民地の権力がまるごと囲い込む対象になったのである。
海を越えた新大陸へ
シナモンが大西洋を渡って新大陸に届くのは、ヨーロッパ人の進出のあとである。メキシコにこの香辛料が現れるのは、スペインによる征服が始まった1521年より後のことで、旧大陸の産物としてスペインの交易路に乗って運ばれてきた。それ以前のメソアメリカの先住民の料理に、シナモンは無かった。新大陸にとってシナモンは、あくまで海の向こうからもたらされた外来の香りだったのである。
こうしてシナモンは、スリランカの一島に始まり、原産地を伏せられたまま古代の地中海へ運ばれ、大航海時代には島ごと支配の対象となり、やがて大西洋を越えて新大陸へと広がった。ひとつの島の樹の皮が、二千年をこえる交易の歴史のなかで世界をめぐった香辛料である。
各地への伝来 5
各地で食べ物として定着した時期の記録です。地域によっては、それに先立つ物理的な到来(観賞用など、食用より前の前史)が含まれることがあります。
- 前700〜前430頃 エジプト 交易路
- 1521頃 メキシコ 植民地交易
- 1600〜1650頃 オランダ 交易路流通
- 1750〜1950頃 フィンランド 交易路流通
- 時期不明 スリランカ 在来
シナモンの到来が成立を縛った料理 2
シナモンが届く前には成り立たなかった料理です。到来年が、その料理の物理的な下限になります。