食材から辿る / 旧大陸

ラード 素材 時期 C検証済

成立年代 前9500〜

ラードが、いつ・どこで食べ物として成立し、各地へどう伝わったかをまとめています。 原産地での成立を3ゲート(食材入手・調理技術・場)で示し、その後の各地への到来を記録でたどります。

3ゲート

食材入手ゲート
家畜豚の脂身(背脂・網脂・腎周囲脂)。豚の家畜化は近東アナトリア(チャヨヌ等)で前8500年ごろ=幅 前9500〜前8000(Price & Hongo 2020)と、中国・黄河流域で前6600年ごろ(Wang et al. 2017)に独立して成立。原産地では在来。野生イノシシからも脂は取れるが蓄脂の多い家畜豚が量的前提
調理技術ゲート
脂身を刻んで弱火で加熱し、融けた脂を漉して冷やし固める精製(レンダリング)。加熱源と容器だけで足り特別な設備・発酵・器具を要さない在来技術
場ゲート
農家・家庭の屠畜にともなう自家生産と保存(原産地では食材入手と同年に成立)。場ゲートは退化

ラードはどこから広がったか

ラードは豚の脂身を刻んで弱火にかけ、融け出した脂を漉して冷やし固めたものである。豚さえいれば作れる。加熱できる火と、脂を受ける容器があればよく、特別な設備も発酵も要らない。だからこの素材の歴史は、そのまま豚が家畜になった歴史に重なる。

豚が家畜になった場所は二つある。ひとつは近東のアナトリア——チャヨヌなどの遺跡で、紀元前9500年から前8000年のあいだに家畜化のしるしが現れ、紀元前8500年ごろにはそれがはっきりする。もうひとつは中国の黄河流域で、こちらは紀元前6600年ごろに独立して豚を飼いはじめた。野生のイノシシからも脂は取れるが、脂を厚く蓄える家畜の豚がいて、はじめて量としてのラードが成り立つ。

名前がつくまでの長い空白

ところが、豚脂を固有の名で呼んだ記録はずっと遅れて現れる。確実な最古の呼び名はラテン語のラルドゥム(lardum、laridum)で、紀元前200年ごろまでには喜劇作家プラウトゥスの台詞にすでに出てくる。豚が家畜になってから、およそ九千年である。この空白は、記録が無いというだけの空白で、そのあいだ人が豚の脂を捨てていたと考える理由はない。

もうひとつ注意がいる。古代のラルドゥムが指したのは、塩をして貯えた脂身——いまで言えばベーコンに近いもので、火にかけて漉した現代のラードとは指すものがずれている。語がつながっていることは、製品が同じであることを意味しない。

豚と一緒に海を渡る

原産地の外へは、ラードは瓶に入って運ばれたのではなく、豚に付いて渡った。中国では豚も豚脂も古くからその土地のもので、菓子の生地を層に仕上げるのにラードが使われてきた。大西洋の向こう側では、1525年前後にスペイン人が持ち込んだ豚がメキシコで急速に殖え、揚げ油であり練り込む脂でもある食材として、ラードは現地の台所に据わった。トウモロコシの生地を軽く仕上げるのも、豆を煮て潰したものにこくを与えるのも、この脂の仕事になっていった。

ラードは市場で買ってくる品である前に、豚を潰したその場で生まれる脂である。農家や家庭の台所で融かされ、漉され、固めて貯えられる——屠畜と抱き合わせの、豚のいる土地の仕事である。

各地への伝来 2

各地で食べ物として定着した時期の記録です。地域によっては、それに先立つ物理的な到来(観賞用など、食用より前の前史)が含まれることがあります。

  • 1522〜1550頃 メキシコ 植民地交易
  • 時期不明 中国 在来

ラードの到来が成立を縛った料理 1

ラードが届く前には成り立たなかった料理です。到来年が、その料理の物理的な下限になります。

ラードを使う料理 24

成立年不明 1

成立の下限(いつ以降か)が史料から決まらない料理。年代順には置けないのでここへ分けた ── いちばん古いという意味ではない。 「遅くとも◯年までに」はその年までに存在したことが押さえられているという意味で、その年に成立したという意味ではない。

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