食文化圏 / 東南アジア

ベトナム料理の成立史

東南アジアの食文化圏「ベトナム」に属する料理 21 品の成立史。 いつ・どこで成立したかを、3ゲート(食材入手/調理技術/場)・確度2軸・検証ログで根拠まで辿れます。

この食文化圏の指紋 DB由来のデータ集計(装飾でなく事実)

この圏に特徴的な食材全圏平均より偏って多く現れる律速食材(=この圏に特徴的な素材)。汎用食材は突出しないので外れます。

  • 全圏平均の約 54.89 倍・2 品で律速(=この圏で偏って多く使われる食材)。
  • 全圏平均の約 4.94 倍・3 品で律速(=この圏で偏って多く使われる食材)。

成立年代の分布成立年代の分布(最古 1291 年〜最新 1950 年)。

  • 中世 1
  • 近世 5
  • 近代 5
  • 現代 6

食材は在来か外来か律速食材が在来(もとから現地にあった)か、外来(交易・開国・植民地交易などで届いた)かの比率。

在来 1 外来 5

所属する料理 21

  • 定番 生春巻き ベトナム ?–? 時C説B

    生春巻き(ゴイクオン)は「揚げない春巻き」ではない。水で戻したライスペーパーで生の具を巻く、南部ベトナムが独自に育てた冷たい巻き物であり、中国由来の揚げる春巻きとは別系統の料理である。

  • 定番 チャーゾー ベトナム 1700–1900 時C説C

    西山朝の英雄クアンチュン帝がライスペーパーを生んだ——ベトナムの揚げ春巻きにまつわるこの発明譚は、皮も巻き揚げの技も帝の時代よりはるかに古く、単独の発明として支える確かな記録を欠く。

  • 定番 バインセオ ベトナム(南部) 1700–1900 時C説C

    ターメリックで黄金色に染めた米粉の生地を、熱した鉄鍋で「ジュー」と音を立てて薄く焼く――その音が名になった、ベトナムの折りたたみクレープ。中部で生まれ、南部で大判に化けた一皿である。

  • 定番 ゴイクオン ベトナム 1800–1950 時B説C

    ゴイクオンは、水で戻したライスペーパーで生の野菜やエビ、豚肉、米麺をくるむベトナム南部の軽食。西山朝の帝が行軍の携行食として考案したとも、阮朝の宮廷で生まれた珍味だとも語られてきたが、そのどちらも後世に付け足された作り話で、一皿を成り立たせたのは英雄でも王朝でもなく、皮を火にかけずに巻くという南部の食べ方そのものだった。

  • 定番 ベトナムコーヒー ベトナム 1857–? 時C説B

    コーヒーに加糖練乳を沈めたベトナムコーヒーは、フランス植民地期のカフェオレが、生乳の乏しい熱帯で練乳に置き換わって根づいたものである。特定の考案者も発祥の年もない、緩やかな翻案の産物だ。

  • 定番 フォー ベトナム 1900–1915 時B説C

    「phở」という名はフランス語のpot-au-feu(火にかけた鍋)に由来し、フォーは仏渡来の料理——耳に心地よいこの語源譚は、言語学でも料理の中身でも裏づけを失っている。

  • チェー ベトナム ?–? 時C説C

    豆やもち米を砂糖水で甘く煮るベトナムの甘味チェーは、中国由来か土着かで見方が分かれ、いつ生まれたのかを一つの年代に定めることのできない、幅広い甘味の総称である。

  • バインチュン ベトナム ?–? 時C説D

    もち米で緑豆と豚肉を包み、葉でくるんで長時間茹でるベトナムの角ばった正月の餅。フン王朝の王子ラン・リエウが天と地をかたどって作ったという建国伝説が語られるが、その天円地方の宇宙観は中国由来で、歴史家はこの物語を「創られた民話」と評している。

  • ブンリュウ ベトナム ?–? 時C説B

    ブンリュウ(bún riêu)は、紅河デルタ(ベトナム北部)の農村に根ざす田ガニの米麺料理である。赤いトマトのスープを思い浮かべる人も多いが、料理の核は田の淡水ガニをすり潰して煮立てた「riêu」であり、トマトは新大陸から後にやってきた南部の彩りにすぎない。

  • バインクオン ベトナム 1291–1900 時B説B

    ハノイ近郊のタインチー村がバインクオンを生んだ、王子が村人に技を授けた——よく語られるこの発祥譚は、村の言う『二百年の歴史』を五世紀以上さかのぼる漢文の詩によって、発祥の証としては成り立たないことが分かっている。

  • ミークアン ベトナム 1550–? 時C説C

    ベトナム中部の名物ミークアンには、14世紀に王妃が村人へ麺作りを教えたという言い伝えと、16世紀の貿易港で中国系の麺文化が地元の米麺に置き換わったという言い伝え、二つの起源話が並び立つ。だが、いま知られるこの一皿の姿を、そのままどちらか一方の時代に結びつけることはできない。

  • カオラウ ベトナム(中部・ホイアン) 1590–1700 時B説C

    ホイアンの名物太麺カオラウは、日本人町の商人が残した伊勢うどんが起源だ——観光地でよく語られるこの話は、史料の裏づけを欠く俗説である。

  • ブンボーフエ ベトナム 1600–? 時C説C

    フエの宮廷料理として名高いブンボーフエには、宮廷厨房で生まれたとする説と『麺の娘』の村の伝承が併存し、いずれも精密な発祥年を一次史料で裏づけられないまま、16〜17世紀のフエ周辺という一点に収束する。

  • チャーカー・ラヴォン ベトナム(ハノイ) 1871–? 時B説B

    ハノイ旧市街の一軒の店から生まれ、その評判ゆえに通りの名までもが料理名へ変わった——ウコンで色づけた白身魚を炭火で焼くチャーカー・ラヴォンは、家の焼き魚が一皿の名物へ育っていった道すじがそのまま辿れる料理である。

  • ボー・ルックラック ベトナム(南部) 1880–1930 時B説C

    賽の目に切った牛肉を強火で揺すり炒める、サイゴン生まれの一皿。アメリカのベトナム料理店が考案したという現代の言い分は、店主本人の証言で崩れる――これは植民地時代の都市で育った、れっきとした古典料理である。

  • ボーコー ベトナム(南部) 1885–? 時B説B

    香辛料の効いたベトナムの牛肉煮込みボーコーは、いかにも土地に根づいた古い一皿に見える。だがこれはフランス植民地期の南部ベトナムで生まれた、比較的新しい料理である。

  • ネムヌーン ベトナム 1900–1950 時C説C

    ベトナム中部の名物、味付け豚肉の炭火焼き。ニンホアを本場とする口承がある一方、この焼き豚肉自体はベトナム各地に広く見られ、唯一の発祥地は定めにくい。

  • フーティウ ベトナム(南部) 1900–? 時C説B

    フーティウは、サイゴン=チョロンやメコンデルタの市場と屋台で親しまれる米麺料理である。その名は潮州語の切り麺「粿條(クイティウ)」の音写で、この一杯が潮州系の移民とともに海を越えて南部ベトナムへ届いた道のりを、料理名そのものが今に伝えている。

  • ブンチャー ベトナム(ハノイ) 1900–? 時C説B

    ブンチャーは、炭火で焼いた豚肉に米麺とつけ汁を合わせるハノイの街場料理である。18世紀の庶民食に遡るという言い伝えもあるが、確かにさかのぼれる記録は20世紀半ばまでで、成立の舞台は宮廷ではなく旧市街の屋台だった。

  • バインミー ベトナム 1950–1958 時B説C

    ベトナムのバインミーは、フランス植民地が持ち込んだバゲットに現地の具を詰めて携帯食に作り替えたサンドである。その名『bánh mì』をフランス語 pain de mie の訛りと説く有名な語源話があるが、これは言葉の歴史に照らして成り立たない作り話である。

  • 豚肉団子バインミー ベトナム(ダラット) 1950–1990 時C説C

    ダラットの朝を支える肉団子入りバインミーは、売り手が「これはベトナムのものだ」と言い切る土地の味である。だがその肉団子を指す名 xíu mại は広東語の燒賣(シウマイ)を写した借用語で、中国の点心に連なる系譜をそのまま名前に抱えている。

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