一覧 / 西欧 / スペイン料理

アストゥリアスのシードル 時期 C起源説 C検証済

確からしさは2つ: 成立時期=成立時期の固さ/起源説=発祥譚(説)の固さ(A〜Dの4段階・別々に持つ)。確からしさとは?→

通説に誤りあり出典で反証された通説を抱える料理です(真の起源は未確定のことが多い)。

スペイン ・ ストラボン(前1世紀末〜後1世紀初)が北イベリアの山地民の飲み物 zythos に触れるのを前身とする説があるが、原文にリンゴの語は無く、標準のギリシア語辞書と研究の訳はこの箇所の zythos をビールと読む。8世紀末から9世紀初めの文書にはリンゴ園(pomifera)が現れる(ファキロの遺言・793〜803年)。地元の歴史随筆は、オボナ修道院の創建文書(780年の日付)や、950年に土地を売った女性が代価の品の一つとしてシードルを受け取った文書を、シードルの記録として紹介する。ただしシードルの語のもとになったラテン語 sicera は『酔わせる飲み物』を指す語で、リンゴ酒に限らない。オボナの創建文書には後の時代の作とみる向きがあり、シードルに初めて触れたのを13世紀のオボナの文書とする紹介もある。18世紀にはリンゴの酒が広く飲まれ、果樹園が急拡大した。2003年EU原産地呼称、2024年ユネスコ無形文化遺産。 ・ 成立年代 800〜 ・ 主役食材 リンゴ

記章(DB由来の作図・装飾/監修・認証ではない)|起源説の確からしさC・検証済C

アストゥリアスのシードルは、リンゴを圧搾し自然発酵させたスペイン北部の伝統的なリンゴ酒。古代ローマ以前から飲まれていたという由緒がよく語られるが、その根拠とされる古典の一句にリンゴの語は無く、研究者の訳や辞書はそこに出てくる飲み物をビールと読んでいる。

検証ハイライト 俗説 → 判定 → 根拠

主な説
ギリシアの地理学者ストラボン『地理誌』III.3.7(前1世紀末〜後1世紀初)が北イベリア山地民(カンタブリ・アストゥレス等)の飲む zytho…
判定
諸説あり
主な根拠
不明ストラボン『地理誌』III.3.7(前1世紀末〜後1世紀初)— イベリア北部山地民(カンタブリ・アストゥレス等)の食習: 一年の三分の二はドングリ粉のパンを食べ『彼らはまたビール(zythos)を飲むが葡萄酒は乏しい』、オリーブ油の代わりにバターを用いる。リンゴ・リンゴ酒への言及は本文に一切ない。LacusCurtius(Loeb, H.L. Jones訳)全文一次史料 反証Francisco Javier González García「La barbarie de los pueblos del N y NO de la Península Ibérica: Strab. 3.3.7」研究計画 Gynaikes, Mulieres (FCT-21-16887) の史料と注解, 2023(Universitat de Barcelona のサイトの PDF)学術二次文献

検証ログをすべて見る ↓

3つの成立条件

食材の条件
リンゴ(在来・栽培リンゴはユーラシア原産で古代よりイベリア半島に存在)
調理技術の条件
圧搾・自然発酵(古代より存在するリンゴ酒醸造)
場の条件
農村の果樹園経済に根ざし、中世は修道院が保存・記録・発展(共同体基盤/修道院で文献化)

成立年代と食材の条件

食材入手(前1000〜77年・在地/到来)が最後に揃った条件で、成り立ちうる最も早い年はその条件が揃った年になる。成立年代の帯は、その年以降にある。場の条件(料理が成立し広まった場)は年で表せないので、図には出さない。

成立年代と成立条件成立 800〜食材入手・最後に揃った 前1000〜77年(リンゴ)前11801160
  • 食材入手(流通/在地/加工の経路を内包)
  • 太線=最後に揃った条件(最も遅い=成立を縛る)
  • 細線=既に充足
  • 場の条件(年で表せないので図には出さない)

起源説

諸説併記

zythos=穀物酒説/リンゴ酒は中世確立説 C

zythos は穀物ベースの発酵酒(ビール類)でリンゴ酒とは別物とする懐疑説。ストラボンは現地未訪の二次的編纂で直接証言でない。リンゴ酒の跡は中世の文書に求める。8世紀末から9世紀初めのファキロの遺言(793〜803年)にリンゴ園(pomifera)が現れ、地…続きを読む

zythos は穀物ベースの発酵酒(ビール類)でリンゴ酒とは別物とする懐疑説。ストラボンは現地未訪の二次的編纂で直接証言でない。リンゴ酒の跡は中世の文書に求める。8世紀末から9世紀初めのファキロの遺言(793〜803年)にリンゴ園(pomifera)が現れ、地元の歴史随筆はオボナ修道院の創建文書(780年の日付)や950年の土地の売買でシードルが代価の品の一つになった文書を、シードルの記録として紹介する。ただしシードルの語のもとになったラテン語 sicera は『酔わせる飲み物』を指す語でリンゴ酒に限らず、オボナの創建文書には後の時代の作とみる向きもあり、シードルに初めて触れたのを13世紀のオボナの文書とする紹介もある。中世の記録のどれをリンゴ酒の確かな記録と数えるかは、ラテン語の校訂本文に当たらないと決まらない。18世紀にはリンゴの酒が広く飲まれ、果樹園が急拡大した。

通説を否定したが起源不明

前ローマ期起源説(Strabo の zythos) D

ギリシアの地理学者ストラボン『地理誌』III.3.7(前1世紀末〜後1世紀初)が北イベリア山地民(カンタブリ・アストゥレス等)の飲む zythos に言及するのを、前ローマ期アストゥリアス・シードルの証拠とする通説。sidra<ラテン語sicera<ギリシア語…続きを読む

ギリシアの地理学者ストラボン『地理誌』III.3.7(前1世紀末〜後1世紀初)が北イベリア山地民(カンタブリ・アストゥレス等)の飲む zythos に言及するのを、前ローマ期アストゥリアス・シードルの証拠とする通説。sidra<ラテン語sicera<ギリシア語sikera の語源も援用され、観光振興で広く流布する。【一次史料の原文】当該箇所の原文(LacusCurtius/Loeb)は『一年の三分の二はドングリ粉のパンを食べる。彼らはまたビール(zythos)を飲むが葡萄酒に乏しく…オリーブ油の代わりにバターを用いる』であり、リンゴ・リンゴ酒への言及は一切ない。ζῦθος は標準ギリシア語辞書(LSJ)が『大麦で醸すビール』と定義し、まさにこの Str. 3.3.7 を『北方諸民族のビール』の用例に挙げる。この箇所を扱う研究の訳と注解(González García 2023)も zythos を『ビール』と訳し、山地民の食をドングリ粉・バター・ビールとまとめる。リンゴ酒と読む側は地元の歴史随筆(Gutiérrez Claverol 2018)が、解釈が分かれることを認めたうえで、名を挙げない権威の意見とプリニウスの果実酒の記述(イベリアの記録ではない)に頼るにとどまる。『ストラボンがシードルを記録した』という通説は原文で支えられない。ただし前ローマ期にリンゴ酒が無かったことを示す資料も無く、アストゥリアスでいつリンゴ酒が造られ始めたかは分かっていない。

解説

アストゥリアスのシードルは、スペイン北部の大西洋岸で作られてきたリンゴ酒である。搾ったリンゴの果汁を樽で自然に発酵させ、高い位置から細く注いで空気を含ませて飲む独特の作法とともに、この地方の暮らしに深く根づいてきた。

主役のリンゴは、古くからイベリア半島にある果実である。栽培リンゴはユーラシアを原産とし、この土地では早くから手に入る素材だった。

八世紀末から九世紀初めのこの土地の文書には、リンゴ園が現れる。ファキロという人物の遺言(七九三〜八〇三年)に見える pomifera というラテン語がそれである。シードルに触れた中世の文書としては、地元の歴史随筆が二つを紹介している。オボナ修道院の創建文書(七八〇年の日付をもつ)と、九五〇年に土地を売った女性が代価の品の一つとしてシードルを受け取ったという売買文書である。ただし、シードルの語のもとになったラテン語 sicera は「酔わせる飲み物」を指す語で、リンゴ酒に限らない。オボナの創建文書には後の時代に作られたものとみる向きもあり、オボナでシードルに初めて触れたのは十三世紀の文書だとする紹介もある。中世の記録のどれをリンゴ酒の確かな跡と数えるかは、まだ定まっていない。

十八世紀にはリンゴの酒が広く飲まれ、果樹園が急速に広がった。農村の果樹園経済に根ざしたこの酒は、二〇〇三年にEUの原産地呼称を得て、二〇二四年にはユネスコ無形文化遺産に登録された。

検証ストーリー

このシードルには、古代ローマ以前までさかのぼる由緒がしばしば語られる。よりどころとされるのは、ギリシアの地理学者ストラボンが『地理誌』(前一世紀末〜後一世紀初め)に記した一節だ。彼は北イベリアの山地に住む人々——カンタブリやアストゥレスの人々——が zythos という飲み物を口にすると書いており、観光の場ではこれが前ローマ期のアストゥリアス・シードルの証拠として広く語られてきた。スペイン語 sidra がラテン語 sicera、さらにギリシア語 sikera へさかのぼるという語源も、この由緒を補う材料として持ち出される。

だが、ストラボンの原文にリンゴの語は出てこない。その一節は山地の人々の暮らしを、一年の三分の二はドングリの粉で作ったパンを食べ、zythos を飲むが葡萄酒は乏しく、オリーブ油の代わりにバターを使う、と描いている。標準的なギリシア語の辞書は zythos を大麦で醸すビールとし、まさにこの一節を北方の民のビールの用例に挙げる。この箇所を扱った近年の古典学の訳と注解も zythos をビールと訳し、山地の人々の食をドングリ粉とバターとビールにまとめている。リンゴ酒と読む見方は地元の歴史随筆に見えるものの、その随筆自身が解釈は分かれると認めたうえで、名を挙げない識者の意見に拠っている。加えてストラボンはこの地を自ら訪れておらず、その記述は他人の資料をまとめたもので、直接の証言ではない。

ストラボンが前ローマ期のシードルを書き残したという話は、原文からはたどれない。八世紀末からこの土地の文書にはリンゴ園が現れ、中世の文書にはシードルと訳される記述も出てくるが、それをリンゴ酒の確かな記録と数えられるかは定まっていない。前ローマ期のアストゥリアスにリンゴ酒が無かったことを示す記録もなく、この土地でいつリンゴ酒が造られ始めたのかは、まだわかっていない。

検証ログ 6 件・押すと開く

日付結果確からしさの変化主張 / 出典
2026-07-15 不明 —→C
前ローマ期からのアストゥリアス・シードル起源(Strabo zythos)
2026-08-19 反証 C→C
ストラボン『地理誌』III.3.7 は前ローマ期アストゥリアスのシードル(リンゴ酒)を記録している
2026-10-08 不明 C→C
ストラボンがリンゴ酒を記録していないという反証は、前ローマ期起源説そのものを退けるか、その細部を退けるにとどまるか
2026-10-19 反証 C→D
ストラボン『地理誌』3.3.7 の zythos を前ローマ期アストゥリアスのリンゴ酒の記録とする通説(説1760)は、原文と、この箇所を扱う研究の訳・注解では支えられない
2026-10-19 不明 C→C
リンゴ酒としての明確な文献確認は8〜9世紀にあり、10世紀に動産の一部をシードルで支払う記録がある(時期の文と説1761の説明にあった一文)
2026-10-19 不明 C→C
シードルを記す13世紀のオボナ修道院文書(説1761の説明にあった年)

このページの誤り・修正を報告

構成素材

この料理を構成する素材の成立史へ。

  • 素材リンゴ成立史は準備中

関連する料理

近い料理 地域・年代・食材の伝来元の近さ