ものがたり / 食材前夜

大西洋を渡った葉物の姉妹 ―― カリブのカラルーとカメルーンのンドレ、交易の海が育てた煮込みに着せられた土着の古さ

食材前夜 登場する料理 2品

カリブ海のカラルーと中部アフリカのンドレは、大西洋を挟んで遠く離れた土地にありながら、西・中央アフリカの葉野菜煮込みという同じ祖から分かれた姉妹である。どちらも「太古から変わらぬ土着の味」と語られがちだが、いまの姿をかたちづくったのは、人と作物を海の両岸へ運んだ交易の時代だった。

トリニダード・トバゴの日曜の食卓には、カラルーがある。タロ(ダシーン)の葉とオクラをココナッツミルクや魚介とともにとろりと煮込んだ、深い緑色の一皿だ。海を隔てたカメルーンの沿岸部、ドゥアラの人びとの婚礼や洗礼の席には、ンドレが並ぶ。苦みのある菜を丹念に茹でこぼし、落花生をすりつぶしたペーストで牛肉や干し魚とともに煮込む、これも濃い緑の煮込みである。名も土地も違う二皿だが、鍋のなかで起きていることはよく似ている——葉物を柔らかく煮て、油や種子のとろみでまとめる、という西・中央アフリカの古い手わざが、両方の底に流れている。

この二皿は、どちらか一方が他方から生まれたのではない。共通の祖を持つ対等な姉妹である。西アフリカから中央アフリカにかけて広がっていた葉野菜煮込みの伝統が、大西洋の三角貿易のなかで枝分かれした。奴隷として海を渡らされた人びとは、故郷の料理の記憶を携えていた。カラルーは、その記憶がカリブの島々に根づいた枝だ。オクラは西アフリカ生まれの作物で、この時代に人びととともに海を西へ渡り、島の畑で育てられるようになった。タロの葉もまた旧大陸からもたらされた。カリブに着いた葉野菜煮込みは、土地の魚介やココナッツを得て、カラルーという新しい姿になった。

料理の名も、この海をまたぐ歴史を映している。カラルーの語源には、有力な二つの説がある。ひとつはアンゴラのキンブンドゥ語 kalulú(オクラを使った野菜料理)に遡る説で、いまもハイチには Kalalou という綴りが残る。もうひとつは、南米先住民のトゥピ・グアラニ語 caárurú(厚い葉)に発し、ポルトガル語 carurú を経てカリブに定着したとする説だ。言語学者ラッセル・ハミルトンらは、この二語をそれぞれ別系統として論じている(Callaloo 誌, 2007)。どちらが本筋かはいまも決着していない。おそらくは、アフリカから運ばれた菜と、新大陸の先住民の葉野菜や調理が、カリブの地で混じり合った——その多元的な出自こそが、この一語の背後にある。文献のうえでこの料理(あるいはその名)が最初に姿を見せるのは、医師ハンス・スローンが 1696 年に著したジャマイカ植物カタログ(Catalogus plantarum quae in insula Jamaica sponte proveniunt)で、'culilu' などの綴りが記録されている。少なくともこの年には、カリブにカラルーがあった。

一方、ンドレのほうは海を渡らず、故郷の中央アフリカに残った枝である。主役のビターリーフ(苦菜、Vernonia amygdalina)は、西・中央アフリカに古くから自生する在来の菜で、カメルーンでは野菜として栽培されてきた土地なじみの素材だ。だが、いまのンドレを特徴づけるもうひとつの主役、落花生には別の来歴がある。落花生はアメリカ大陸の作物で、大西洋の交易を介して中央アフリカへ渡った。イタリアの宣教師カヴァッツィは、1650 年代のコンゴ・アンゴラ滞在でこれを書きとめている(Istorica descrizione de' tre' regni Congo, Matamba et Angola, Bologna 1687)。つまり、カラルーを西へ運んだのと同じ大西洋の潮が、逆向きに新大陸の落花生を中央アフリカへ届けていた。今日の落花生を使うンドレは、この作物が海を渡ってのちの姿である。

だからこそ、ンドレを「太古から現在の形のまま続く土着料理」と語ることには無理がある。落花生はアメリカ大陸の作物であり、それ以前の中央アフリカには存在しない。ゆえに、いまの落花生版をそのまま古代へ遡らせることはできない、と食物史はみている。葉物を煮込むというジャンルそのものが古いことは疑いようがなく、落花生が届く前には、在来のエグシ(メロンの種子)でとろみをつけた版が前身としてあったのかもしれない。ただ、その具体的な姿や年代を確かめる史料はまだ薄く、断定はできない。

二皿は、たしかに古い葉野菜煮込みの伝統から分かれた本物の姉妹である。けれども、私たちがいま食べるカラルーとンドレの姿は、太古から凍りついた土着の味ではなく、人と作物を大西洋の両岸へ運んだ交易の時代が育てた、比較的新しい実りなのだ。土地の誇りは、ときにその味へ実際より古い由緒を着せたがる。姉妹の本当の物語は、海を越えて分かれ、それぞれの土地の恵みと出会って完成した、という一点にある。

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